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結婚式−1
「はぁ?!」
鏡に映った自分の姿に大声が出る。
「これで?!」
俺の言葉に頷く男達の肩が揺れている。
「勘弁してくれよ…」
うなだれた俺の周りを男達が取り囲み、まるで神輿のように担ぎ上げられると、嫌がる俺を無視して部屋を出た。
事の起こりは最近3日に開けず訪ねて来る風の弟の波からだった。
「結婚式?」
俺がいつもの見回りから帰り、玄関の扉を開けた途端に、陸の大声が耳に飛び込んできた。
音を立てずに扉に片方の靴を挟んで、そっと廊下を進む。リビング近くまで行くと、波の声が聞こえてきた。
「そう。僕と静の結婚式をねするんだ!それで皆を招待しようと思っているんだけど、いいよね?」
「んー、どうだろう?」
困ったような風の声。しかしそれをかき消すように陸の大声が廊下にまで響き渡った。
「行くっ!行きたいっ!!」
「水は?」
波の問いに水もこくんと頷く。
「じゃあ、決まりだね!!後で4人分の招待状送るから。あぁ、楽しみぃ!」
にこにこと水と陸と話す波に風が何か言おうとするが、ためらい言い出せない。
参ったな…
あんなに楽しそうにしている奴らに、行けないなんて風じゃ言えねぇよなぁ。仕方ない。ここは俺が悪役になってやるか。
玄関まで足音を立てずにそろそろと戻り、扉に挟んであった靴を取るとわざと大きな音を出して扉を閉めた。
「ただいまぁ!って、波はまぁた来ているのか?」
わざとらしい位の大声を出しながら廊下を歩く。扉の前に着く直前、扉が開いて風が出て来た。
「雷、お帰り。着替えるよね?波、ちょっと待ってて、手伝ってくるから。」
部屋の中に向かって声をかけた風が閉めかけた扉の隙間から、波の声が通り抜けて俺の耳にも届いた。
「ごゆっくり!何時間でもどうぞ!!」
「波っ!!」
風が顔を赤くして大声を出すが、扉はすでに閉まりもう中からは3人の楽しそうな笑い声が聞こえてくるだけ。
「もうっ!こんな昼間から…子供達の前で言わなくてもいいこと言って…あっ!雷、ごめん。」
「いいよ。まぁ、俺は波の言葉に甘えてもいいと思っているけどな。」
顔を真っ赤にした風が部屋の扉を開けて、変なこと言わないでよと言いながら俺を先に部屋に入れると、扉をパタンと閉めた。
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