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結婚式−4
あれだけ毎日のように来ていた波がパタリと来なくなり初めのうちは心配したが、元々俺はそこまで波を受け入れていたわけではなかったので、一週間も経った頃には、陸や水が口に出した時くらいに思い出す程度には忘れていた。
「波、どうしたんだろう?風、何か言ってこない?」
陸と水に詰め寄られた風が困ったように首を振ると、二人はため息をついて俺を見た。
「俺達が行ったらまずいっていうのは分かるけどさぁ。やっぱりお祝いしてあげたかったなぁ!雷もキツく言ったからなぁ。」
二人の言い分にカチンと来て言い返そうとする前に風が口を開いた。
「式の前は色々と忙しいんだよ。だからきっとそれで来られないだけだと思うよ?」
「あぁ!それに波があの程度で来ないなんて、そんな奴じゃないだろうが?!」
風の言葉に覆いかぶさるように俺も口を開いた。
なぁ?と風を見ると、だが少し寂しそうに頷いた。しかしそれも一瞬で、陸と水に請われるままに村の結婚式の話を笑顔を見せながら話し始めた。
「兎の村ではね、王家に伝わる衣装があってね…例えば今回の波は家を出て静の家の者となるんだけど、その場合は静はその家に伝わる装束を着るんだ。波の方は真っ白で少し薄手の装束を素肌に纏う。周囲に自分が敵ではなく、何も危険な物は持っていませんて証明するためらしいよ。」
「それって恥ずかしい。僕なら皆に全裸を見られるなんて嫌だなぁ。」
水が顔を赤くして言う。
「大丈夫だよ、水。相手の衣装はまるでマントのようになっていてね、嫌ならその中に逃げ込めるんだ。煌びやかな刺繍と散りばめられた宝石。家のを見せてあげたいな…本当にきれいでさ。小さい頃からあれを着るのが僕…あっ!」
風が手で自分の口を塞ぐが、まるで独り言のように呟いていた言葉は、陸や水には聞こえなかったらしい。二人は風の話を聞いて紙にその想像したものを描いて笑っている。それを見てほっとしたような風がそっと俺に視線を送るが、俺も知らぬふりをしてコーヒーを啜った。
「だけど、波がそんな地味なので満足するのか?」
俺の言葉に、風が聞こえていなかったんだと安堵の表情を浮かべた後で、再び笑顔になって話し出した。
「多分しないと思う。僕がいた頃もけっこうレースや刺繍なんかで飾り付けられていたし。白だけって言うのと素肌にって言うのさえ守れば、けっこう自由みたい。」
「それってドレスみたいなの?」
水の問いに風がううんと首を振る。
「静が着る方もだけど、片方のわきに紐が数本ついていてね、それを結んで着る…と言うより巻くって感じかな?」
「だったらさ、そのマントの中でイタズラ出来るわけだ…」
俺の冗談めかした言葉に陸がああ!と反応し、水がもう!と顔を赤くする。
風も同じように怒るかと思ったが、実はねと顔を赤くして俯きつつ喋り始めた。
「雷の言うことが正解なんだ。自分のものだと見せつけるためのものでもあるんだけど…マントの隙間から見える行為に、僕も子供の頃はドキドキしたよ。」
「なんか、兎族ってすげぇな。」
まさか本当にするとは思ってもいなかった俺の方が顔を赤くしていた。
「なぁ!雷は?狼はどんななの?」
陸の大声にうるせえよと一喝して、俺も自分の村で行われた結婚式を思い出していた。
「んー、まぁ、普通だよな。狼族は二人共煌びやかな衣装を着て、ご馳走と酒を振る舞う。ただ、期間が一週間続くんで、最後の方は酔っ払った大人達がガーガー寝てる間に、呼ばれていないガキ共が入り込んでご馳走だのお菓子だのをガツガツ食い漁ってな。まぁ、それも式のうちだから、終わり近くになると子供の喜ぶような食い物に変わるんだ。」
「面白そう!でもさ、その間、二人もずっとそこにいるの?」
水がチラと陸を見て言う。
「いや?二人はさっさと寝室に篭るんだよ。一週間をそこで二人きりで過ごすんだ。客はそれの見張りってことだ。」
「それ、いいなぁ!なぁ、水!俺たちもやろうよ!!」
「バカか!?お前らにはまだ結婚は早ぇよ!」
ソファから立ち上がって陸の頭を軽く叩いて扉に向かう。
「雷?」
追いかけて来る風の心配そうな声に少し眠って来るわと言い残して部屋を出た。
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