62 / 90
結婚式−6
結局そのまま俺と風は部屋から出ることなく次の日の朝を迎えた。
風はすでに朝食の支度に台所へ行ってしまった為、風のいなくなった広くて冷たいベッドの真ん中に俺は大の字になってぼーっと天井を見るでもなく眺めていた。
「今日もあいつら怒っているんだろうなぁ…ちっ!式の日なんか知らなきゃこんな事にはならなかったのによぉ…はぁああああ!」
昨日の陸のような大きなため息を出すと、よっと言いながら寝返りを打って窓の方を見る。
「ん?!」
サッと何かが動いたような気がした。
この家は風の村の者にはとっくに知られているし、狼の村でも把握しているはず。ただし、兎の村とはすでに和解というか、俺たちのことを認めてくれている。だからああやって波が遊びに来ているわけだし。
俺の方も…風がさらわれた時に俺がしっかりと脅しておいたので、認めてはいないが黙認という形になっているはずだ。一応は続けている見回りも、監視などもされている様子がないのでそろそろやめようかと考えていたくらいだった。
まぁ、波が監視役みたいなもんだけどな…
だが、今さっき見たのはそんなかわいいものではなく…って、別に波のことが可愛いと言っているわけではない。明らかにプロと思われる、この家を嗅ぎ回っている影が見えた。
兎の方では、いつでも波が俺たちのことを報告できるわけだし、今更そんなモノを寄越すとは考えられない。
…と、言うことは…
「やっぱり俺の方…だよな。あぁ、くそっ!こんなイライラしている時に、来んじゃねぇよ!また、風に迷惑をかけちまう…はぁ。」
イライラした心を落ち着かせながら、体が外から見えないように屈んだままで窓の下の方に手をかける。
バタンと一気に窓を押し開くと、そのまま銀狼となりつつ窓から飛び出した。
「誰だ?!」
一回転しながら地面に足をつけて唸り声を上げて威嚇する。
「せ…静様!!狼です!」
静?
聞き慣れた名前が聞こえ、兎とは思えぬガタイのいい男が俺の前に片膝をついた。
「人に戻っていただけますか?流石にその姿では恐ろしくてお話ができませんので。」
いつもの気のない返事とは違う男の物言いに、こんなきちんと喋れるヤツだったのかと呆気に取られたまま、分かったよと言って俺は言われるがままに変身を解いて人に戻った。
しかし、恐ろしいなんてよく言うよな。むしろ俺をいつでも抑止できるように、部下だと思われる男達をきっちりと配備してやがる。
人に戻った俺が全裸で腕を組んでそれで?と言いながら静と視線を合わせると、おもむろに静が動いた。
「これを。」
静が羽織っていたマントを俺に渡し、受け取った俺がそれを素肌に纏う。体が隠れるほどの大きさに、本当にこいつは兎か?と訝しみつつ静にこれでいいか?と尋ねた。はいと頷いた静に話の続きを促した。
「それで?朝っぱらから何を嗅ぎ回ってやがる?まさか風を…!?」
連れ戻そうとしているのかと言う俺の言葉に被るようにそんな怖いことしないよとまたも聞き慣れた声がした。
「波?お前ら、何でここにいるんだよ?式は昨日のはずだろう?」
「いいから!雷は静達の言う通りにしてくれればいいの!静、雷のことは頼んだよ!」
そう言い残して、波は数人の男と女を従えて家の中に入って行った。
「分かっています。おい、この方を丁重に扱え!」
静の言葉に、俺の周りに配備されていた数人のやはりガタイのいい男達が近付いて俺を取り囲み、二人が俺の両側に並んだ瞬間、俺の脇に腕を入れてそのままぐんと上にあげると俺の足は地面から浮き上がり、訳もわからずに庭にいつの間にか設営されていたテントに押し込まれた。
ともだちにシェアしよう!