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結婚式-8

「雷っ!!」 リビングに入るとすぐに陸の声がしたが、恥ずかしくてそちらを見る気にはなれず、周囲に視線をやるといつもとは違う光景に、自分の状況も忘れて声が出た。 「何だこれ…?」 リビングは全ての家具類が片付けられ、床には肌触りの良さそうな絨毯が敷かれている。そこに風と静があぐらをかいて座っていた。風はやはり結婚式で着ると言っていた白い、こちらはしっかりとした厚手の布だが、それにさまざまな色の宝石や金銀の糸の刺繍が飾られ、煌びやかで豪華だ。それを纏った風は王の風格で俺を見上げたが、その視線が俺と合うとすぐにいつもの風の顔に戻り、情けなさそうな顔で俺にごめんと声を出さずに唇を動かした。 俺もいいよと唇を動かすと、風が照れ臭そうに笑った。 「それでは、お相手をお迎え下さい。」 兎の男が風と静に向かって言うと、二人が立ち上がりこちらに向かって歩いて来た。風に手を差し出されて俺がその手を取ると、担いでいた男達がゆっくりとしゃがむ。床に足がついて下りようとするが、昂ったままの下半身の痛みでなかなか動けない俺を風が繋いでいる手で強く引っ張った。 バランスの崩れた俺を受け止めるように風が手を広げると衣装がマントのように大きく開いて、俺はその中にすっぽりと入った。 「大丈夫?」 「…な訳ねーだろ。でも、お前の夢だったんだろう、この衣装を着て式をやるの。だったら俺は我慢できる。」 「雷…ありがとう。」 俺をマントの中に入れたままで歩き、先ほどの場所に戻って静かに座る。静は波を男達の上から抱き上げてそのまま戻って来ると、ドスンと俺達の横に座り、俺に向かってニヤッと笑い一礼した。 「チッ!」 俺がそれを無視して横を向くと、風がどうしたの?と耳元で囁いた。 「なんでもねぇよ…なぁ、結構マジで辛いんだけど、どれくらいで終わるんだ?」 「式は1時間くらいで、僕達はここから出られるんだけど…その…苦しいなら…外から見えないから…その…」 ちらっと風の視線が動いて静を見た。 俺もそれにつられるように視線だけ動かすと、波がマントの中でゴソゴソと動き、手で口を覆っているのが見えた。 そう言えば、マントの中で触ったりするようなことを風が言っていたが、マジかよ… 陸と水もチラチラと二人を見て、体が揺れている。 「雷…僕の手でいいなら…スる?」 「あのなぁ…」 そう言ってため息をつくと風の胸に手を這わせてきゅっと突起を摘んだ。 「あっ!」 風が真っ赤になって下を向きながら俺を睨んだ。 「もうっ!」 「俺はされるよりもしたい方だってお前が一番知っているだろう?それに、皆にお前のやらしい顔を見せる気もないし、可愛い声を聞かせるつもりもねぇ。それは俺だけが見て聞ければいいんだ。だから、二人きりになれるまで我慢するよ。」 「雷…ありがとう。」 「だが、陸達の方が我慢できそうもねぇな。あんなんで、大丈夫か?」 俺の心配する言葉に風がクスッと笑って大丈夫だよと答えた。 「そろそろ…あ、来た。」 風の視線の先には台所から入ってくる大皿に山盛りのご馳走の列。 「ほら、もう陸の目はご馳走に釘付けだよ。」 風の言う通り、陸は今まで波達で鳴らしていた喉を、今度は目の前のご馳走を見て鳴らし出した。 「ははは。本当だ。」 笑う俺に風も、ね?と微笑んだ。 ご馳走が床を敷き詰めると、女達がグラスを置いていく。それを皆が手に取るのを確認して男が口を開いた。 「それでは乾杯を…こちらの…あぁ…そのぉ…」 だが、それまでスムーズに喋っていた司会のようなことをしている男が、つっかえながらそわそわと落ち着かず扉を見る。 何だ?と思い、風と目を合わせた途端に扉の向こうから大きな声が響いた。 「いいから扉を開けろ!」 その声に焦った男が開けてくださいと扉の横で待機していた男達に言うと、男達は頷いて静かに扉を開けた。

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