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結婚式-9
「夏?!」
扉から風のものよりは劣るものの豪華な服を着た男と、赤子を抱えた女を従えたやはり豪華な服に身を包んだ女性が部屋に入って来た。
「見たような顔だな…」
俺の言葉に風が頷く。
「夏だよ。僕の弟で今の兎族の王。それと彼女がその…」
「お前と子作りさせられそうになったって言っていた女か?」
「うん…」
「可愛い子じゃないか?お前に似てさ。」
横を向いて言う俺に風が焦って意地悪と大声を出した。
一瞬でしんとなった部屋に風の声の余韻が残る。
「誰が意地悪なんだ?私か?」
夏が風に近付きながらその隣にどかっと腰を下ろして、顔を覗き込む。
「夏じゃないよ…ごめん。式を中断させて。」
夏が風の頭にふわっと手を置くと、いいんだよと先程までの威嚇するような態度とは別人のように微笑んだ。ふと俺と目が合ったので、一応軽く頭を下げたが、明らかに俺から目を背ける。
何だ?
訳の分からない夏の様子に風の顔を見上げるが、夏とニコニコと話をしていて俺の視線には気がつかない。
仕方ねぇな。
俺の気のせいだったのかもしれないしなと思い視線を戻すと、女性が女から赤子を受け取ってその隣に静かに座った。俺の視線に気がつくとにこやかに微笑み一礼されたので、俺もどうもと言うように軽く頭を下げる。
よく見るとやはり風に似ている感じで、風と女性を交互に見ながら首を捻った。
「あー、では…王、ではなくて…な、夏様より乾杯を…」
司会がこちらが大丈夫かと思うほどにビクビクした声で式を再開させた。
「あー、風…いきなりで悪いとは思ったが、風の夢と私達兄弟の夢をここで叶えさせてもらった。できればもっときちんとした形で風の為に素晴らしい、国をあげての式をやりたかったんだが…」
言葉が止まり俺を見たその目は、祝うと言うよりも呪うと言った方がいいような目つきだった。
「もう!いい加減にしなよね、夏!風が雷を選んだんだよ!それにどんなに夏が風を好きでも兄弟なんだからさ。諦めなよ!」
隣からすっきりとした顔の波が口を出した。
「うるさいっ!私は本当は風を連れ帰るつもりでここに来たんだ!!だけど…風があまりにも幸せそうに微笑むから…」
あぁ、そう言うことだったのか…
全てに合点がいってため息が出る。
当の本人である風はいつものことなんだろう、夏は本当に僕が好きなんだねぇ。などと言って微笑んでいる。
チラと夏を見ると俺をじーっと睨み、まるでそこは俺の場所だとでも言いたげだ。
「なるほどな…」
風が式中にマントの中で色々とするのは周囲に自分のものだと分からせるためっていう意味もあるんだと言っていたが…そう言うことか。
くくっと笑うと風がどうしたの?と俺を見下ろす。
「ん?いや、ようやく色々と意味が解ってさ。だったら俺たちも先人のやり方に則ってやらせてもらわねぇとな。」
「え?!あ…ちょっとま…って…雷…だめ…んっ!」
声を出さないように口を抑える風の手を掴んで、俺の昂ったままの下半身に触れさせると風がこくんと小さく頷いて扱き出した。
俺も風の下半身にマントの中で手を伸ばし、扱きながらもう片方の手の指を唾液で濡らすと背中に回す。
「声、我慢しろよ?」
「やだ!雷、そっちは…ひあっ!!」
風の甘い声が夏の耳にも届いたのだろう…ぐちぐちと文句を言っていた夏の視線がこちらに移り、見る見る間に顔が赤くなっていく。
「あー、やめ…いや、その…おいっ!…あーーーー!もういいから、皆もグラスを持て!風達はいいから…動くな…あー、持ったな?持ったんだな?乾杯!!」
「か…乾杯っ!!」
グラスを高く上げて、場にいる者達が乾杯と声を揃えた。
夏はグラスの中身を一気に空にすると、風に話しかけるふりをして俺たちを皆の目から隠すようにすると、俺に向かって威嚇して来た。
「何をやってる!?ふざけるな!!さっさとその手をマントの中から出せっ!!!」
ぐいっと腕を引っ張るが、流石に狼と兎とでは力の差が歴然。むしろ引っ張られたことで風を刺激し、風が真っ赤な顔で唇を噛んだ。
「んっ!動かさ…ないで…夏…」
額に汗が浮かび、涙が頬を伝うのを俺が舌で舐めとる。
それを隣で見ていた波が夏に向かって口を開いた。
「本当にいい加減さ、風離れしなよ!夏がどんなに風を想っても風には届かないんだよ?それに風の幸せそうな顔…もうさ、わかっているでしょ?」
「うるさいっ!風は…風は…兎の、俺たちの風だ。それを何で狼なんかに…認めない!許さない!!風を返せっ!!」
「夏…ごめんね。それでも僕が愛しているのは、欲しいのは雷なんだ。だから、僕達の事、認めて欲しい。」
風が震える手で夏の頬に触れる。
「くそっ!!お前が、お前さえあの日、私達の前に現れなければ…っ!!!」
夏が風の手を掴んで引っ張ろうとするが、それを俺が掴んで引き離す。
ぬるっとした体液が夏の手についたのを夏の目が見つめる。
「おい!それはお前のじゃねぇよ!返しな!」
夏の手を掴んで引っ張ると、ついた風の体液を舐め取った。
「雷!何をしてるの?!」
風が俺の口から夏の手を離すと、いきなり唇を合わせて来た。
自分から何かをするなんてことをあまりしない風のいきなりの行動に、夏や波、その場にいた誰よりも俺が驚いて風の体を引き離す。
「どうした?!」
そんな俺を風が涙目できっと睨んで、そのまま俺の胸に顔を埋めて泣き出した。
「おい、風?どうしたんだよ?」
「嫌なんだ…雷が僕以外の誰かの体に触れたりとか…そんなの見たくない!!」
「いや、あれはお前の体液がついたから、返してもらおうと思ってだな…」
「そんなの拭けばいいでしょ?!何で舐めるの?僕に言ってくれれば僕がやるのに…雷は僕のだ!僕のなんだ!!」
なんだかいつもの風とは違うぞと波を見ると、ごめんねと言って風のグラスを俺の鼻に近付けた。
プンと香るアルコールの匂い。
「飲ませたのか?!」
「ちょっとだけなんだけどね…でも、嬉しいでしょ?」
「馬鹿野郎…まったく…こんなのもう我慢できねぇだろうが!!」
俺と波達のやりとりを聞いていた風が、俺の頬を両手で掴むとぐいっと自分の方に向けた。
「喋っちゃヤダ!!雷は僕とだけ喋って!僕だけを見て!僕だけに触れて!!僕だけを愛してよ!!!」
「すげぇな…酔っ払った風も可愛い過ぎだわ…なぁ、もうさ、限界なんだが…」
「乾杯も終わったし…いいんじゃないの?」
「おい!!私を無視するな!!!」
「もう、いい加減になさい!!風様がお幸せならそれでよろしいじゃないですか?それとも、ワタクシとキッチリとお話ししましょうか?」
今までずっと黙っていた女性が夏を黙らせると俺達に向かって微笑んだ。
「せっかくのお式なのにこのような形となってしまい、申し訳ございません。うちのには後ほどしっかりと言い聞かせておきますので、どうかお許し下さい。それと…」
そう言って夏を手でどかすと俺たちの隣に座って赤子を近付けた。
「お二人の甥です。どうか幸せのお裾分けをしていただけますか?」
風が先程までのぐだぐだな感じから一瞬できりっと顔が戻ると、雷も一緒にと言って、二人で片頬ずつに唇で触れた。
「僕こそごめんね?嫌な思いをさせてしまって…」
「ワタクシ、夏様のこう言うところも含めて愛しておりますので、まったく嫌な思いはしておりません。それよりも…どうぞ、お二人のお部屋へ。ワタクシ達は勝手にお祝いさせていただきますので。あ、風様…」
「何?」
「とても麗しいお姿…ワタクシもこのようにお幸せそうなお顔が見られて、大変嬉しいです。どうか今後はこの子に会いに、皆様で村の方にもお帰りくださいね?夏様はワタクシがしっかりと躾けておきますので…ふふ。」
「うん。陸や水も連れて、雷と一緒に帰らせてもらうよ…でも今は…雷…僕もう…ムリ…」
「わかってるよ。すまないが篭らせてもらうわ…ゆっくりとしていってくれ。」
はいと言って微笑む奥方の隣で奥歯を噛み締める夏の顔を立ち上がりながら見下ろすと、ニヤッと笑った。
「それじゃあ、風は連れて行くんで、後はよろしくな…夏様!」
「さっさと行け!!」
フン!と横を向きながらも抱かれている風に視線が向かう。その目から隠すように体を動かして扉に向かう。廊下に出た俺の背中に大きな舌打ちが追いかけてくるが、それを扉を閉めて跳ね飛ばすとはははと笑いながら部屋に入った。
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