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結婚式-16
ふと目を開けると風が俺の腕枕で気持ち良さそうに寝息を立てている。
そっと額にかかる髪をどかすと、風がゆっくりと目を開けた。
「悪い。起こしたか?」
「ううん。もう頭は起きていたから…おはよう…かな?」
首を後ろに向けて窓にかかるカーテンを少し下から引っ張ると、朝というには少し強い日の光が顔に当たった。
「もう、昼かな?起きられるか?」
「うーん…ムリ…みたい…。ごめん。」
「いや、そこで謝るのは俺の方だから。悪かったよ…2、3日は動けそうもないか?」
「大丈夫だと思うよ…雷さえ我慢してくれればだけど。」
風が俺を見て悪戯っぽく笑う。
「まぁ、努力はする。」
「もうっ!絶対にするつもりないでしょ?」
プイッと俺から顔を背けた風の首筋に唇を当てて、舌でなぞる。
「んっ!言ってる側から…あっ!」
「我慢できないのは風もだろう?でも、さすがに俺もちょっとだるいから、落ち着くまではお互いお預けだな?」
ちゅっと音を立てて唇を離すと、風の手がそこに当たる。
「うん…あ、でも…やっぱり我慢しなくていいよ…僕ら黒兎にとって金狼との行為は幸せでしかないから。我慢している雷を見る方が辛いんだ…」
まったく、こんな可愛いこと言うとか反則だろう。
「なぁ、今のはもう一回しろっておねだりか?」
「えっ?ち、違うよ!雷だって今はもう無理って…ウソ?!」
「俺も自分の性欲に呆れるわ…でもな、今のはお前が悪いんだからな?」
風の顔が緊張と恐怖で青ざめ、体が俺から離れようとするのを、その尻尾をきゅっと掴む。途端に風の体から力が抜けてペタンとベッドにうつ伏せになった。
「解さなくてもいいよな?」
風が嫌とか言うが、俺はそれを無視して乗っかるように腰を当てるとゆっくりと押し込んでいく。
「ううぅぅぅん…あっ…はぁっ!」
風の下半身をベッドにこすりつけるように腰を動かすと、まだ中に入ったままの精液が俺が動くたびに風の奥を刺激して、風が気持ちよさそうに声を上げた。
「んぁっ!ぁああっ!だめ…奥に…っもち…きもちいっ!あっ!はぁああっ!っくぅ!!イっちゃ…ぁあああああっ!!」
「悪い。俺も…中に…っ!」
「あっ…ぁあっ!」
ぐぐっとくっつけた腰を離して風の上からごろんと寝返りを打つようにベッドに仰向けになる。
「はぁ…マジで、もう無理だわ…はぁ…」
「雷の…バカ…」
2人で肩で息をしながら笑い合う。
「風…我慢するって言ったのに、ごめんな。」
俺の言葉に風がいいよと首を振った。
「式の時にずっと我慢してくれてたし…」
式の時…
はっと思い出して風に尋ねた。
「あれってどう言う意味なんだ?」
「あ、いつでもあなたを受け入れますって言うことみたい。だから、波も後ろを準備して…」
顔を真っ赤にして風がベッドに顔をくっつけて答える。
「でも、男でも女でもあれをやるって…やってもらうって…」
「女の人も自分で用意するんだよ?衣装の支度をしたら、他の人達は外で待機して…って、雷もそうだったでしょ?」
「え?!」
「あ、そうか。雷はこのことを知らなかったから静がその話をしてくれたんだね?普通は受け入れる側がする事だからどうするのかな?って思ったんだけど…」
風の話がまるで文字の羅列のように聞こえる。
本来は自分で準備するって事…だよな?
「くそっ!!」
思った以上の大声に風がビクッとして顔を上げた。
「どうしたの?」
「なぁ、もう一度確認するけれど、準備は自分でやるんだよな?」
「うん。だってこれから結婚するって言うのに、まさか他の人がそんな事したら…結婚式がなくなっちゃうくらいの話だよ?」
「だよな…」
完全に静にいいようにおちょくられたのか?
沸々とした怒りが湧いてくるが、さすがにもう性欲もなく、俺は風の体を抱き上げて俺の上に乗せると唇を合わせた。
「どうしたの?」
「ちょっとな…少しこのままでいてくれれば落ち着くから…な?」
「分かった…んっ…」
ただ唇を合わせているだけでも、風とだったら心のざわつきがすーっと落ち着いていく。
「やっぱり風だけだ…俺は本当に幸せだよ…なぁ、やっぱり村に黒兎を探せって言ったらダメか?」
「それは…だって…」
唇を離そうとする風の頭を掴んで押し付ける。
「俺はな、金狼の全員にこの幸福を教えてやりたいんだよ。どんなにいいパートーナーができたとしても、黒兎とのような幸福も平安も訪れはしない。いつも心はざわつき、怒りで暴走しそうな自分を見る周囲の恐怖の視線に晒され、ずっと落ち着く事なく過ごして来た。それがお前とこうやって抱き合い唇を合わせるだけで、嘘のように穏やかな落ち着いた気持ちになれる。」
「雷…」
「それに相手が兎族だって分かっていれば、俺達みたいに追い出されたりもしなくなるだろう?それが運命のパートナーなんだから。」
風がしばらくじっと考え込んでいたが、そうだねと頷いた。
「僕もこの幸福を全部の金狼と黒兎に教えてあげたい。でも、僕だけじゃ決められないから、夏や波とも相談していいかな?」
「あぁ。そうしよう。」
そう言って、再び唇を合わせたまま、いつの間にか二人して眠りに落ちていた。
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