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結婚式-17

どれくらいの時間寝ていたのだろうか? 扉を控えめにノックする音がして目を覚ました。 「誰だ?」 俺の返事に、水の声が答えた。 「僕だよ。起きているなら、ちょっと出てきて欲しいんだけど…もう、一週間経ったし…それと波が雷に怒ってて…来られる?」 よくは分からないが、仕方ねぇなと水に行くよと答えながら服に着替える。 「雷?」 俺の物音で風が目を覚まし、俺を寂しそうな目で見上げた。 「ちょっとリビングに行ってくる。さすがにこれ以上こもってもいられないしな。あ、風はもう少し寝ていろ…っと、水?」 扉に向かって声をかける。 「どうしたの?」 「悪いんだけど、風のことを看てやってくれないか?ちぃっと、無理をさせすぎたからさ…」 「雷っ!」 風が顔を真っ赤にして起きあがろうとするが、すぐに腰を押さえてベッドに沈んだ。 「おい、だから無理はするなって!」 「雷のせいでしょ?もうっ!」 ぷいと頬を膨らまして横を向く風に服を着替えさせて寝かせると、額に唇を当てた。 いいよと言ってくれた水を部屋に入れてから俺が廊下に出て、頼むなと言いながら扉を閉める。 風には強がって見せたが、実のところ俺も少し体がだるい。だが、これ以上一緒にいるとまた風を抱いてしまいそうで、さすがにこれ以上は俺も風もまずいことになりそうだよなと思いながら、俺は無理矢理扉から手を離して廊下を歩き出した。 リビングの扉を開ける前から、波とわかる声がギャンギャンと喚き散らしているのが聞こえてきた。 「おい!うるせーぞ!」 バタンと扉を開けると陸がにやぁとした顔で俺を見た。 「何だよ?」 「別にぃ。たださ、一週間どころか、もう出て来る気がないのかと思ってた。」 「本当はそうしたいんだがな…これ以上は風が壊れちまうし、俺もな…」 いつの間にか元に戻っているリビングのソファのいつもの位置にどかっと座る。 「水はどうしたの?」 「風の事を看てもらってる。」 「え?じゃあ、俺も行ってこようかな?」 そう言って立ち上がろうとする陸の肩を掴み、おまえはここにいろと言って座らせた。 「何でだよ?俺も風に会いたい!雷ばっか独り占めしてさ、ずりぃよ。」 陸がそう言うとちょっと涙目で顔を赤くし、俯く。 そうやってシュンとしている陸を見るのはあまりない事なので、胸が痛むが… さすがに陸にはなぁ…風も困るだろうし。多分、行っても水に部屋から追い出されるのは目に見えているしなぁ。 「悪かったけどさ、もう少し経てば会えるからさ…な?」 「それに今行ったって、風も困るよ!」 波の声が俺と陸の間に割って入る。 「どうして?」 「今頃、中にあるものをぜーんぶ出してるんじゃないの?僕だって本当に大変だったんだから、金狼の相手をした風は物凄いことになってそうだよね?」 陸にはあまりピンと来ない話のようだったが、夏と奥方は2人で顔を見合わせて黙ってしまった。 「波、そいうのをここで言うのはやめろよな!」 俺の言葉が癇に障ったようで、波の声が一段と大きくなった。 「狼の結婚式なんて…何であんな!僕、大変だったんだからね!」 「おい!ちょっと待てよ!水と陸には一週間の間、部屋に篭るとしか言ってないぞ!水から聞いたなら…」 波が何を馬鹿な事をと言いたそうな目で俺を見ながら、口を開いた。 「あのねぇ、静は優秀なの!それで、静の下にいる部下たちも静には劣るけど、優秀なの!だからね、僕達が村に着く頃には静は狼の式がどういうものかをきっちりと調べて、これがしきたりですからって、僕に…全部…もうっ!なんて事言わすのさっ!」 怒って立ち上がりながら俺を睨む波に、俺も一瞬は悪い事をしたなと思ったが、すぐに俺が悪いのか?と思い直した。 「そこでお前が怒るのは俺じゃなくて、調べ上げた静にだろ?何で俺が怒られなきゃいけないんだよ?」 「うるさいっ!静にはもう怒ったの!だから、ここにいないでしょ?あいつ、一週間ずっと僕を離してくれないし…全部出すし…そりゃぁ、好きに躾けていいよなんて言ったけどさ、あんな事さ…本当に苦しくて辛くて…でも、気持ち良くて…って、雷のばかっ!」 「お前が勝手に喋ってんだろうが?!まったく…それで、幸せな式だったのか?静とこの先もずっと一緒にいたいって思えるような。」 俺の言葉に、ぷぅっと膨らましていた頬がみるみるしぼんで、今度は真っ赤なりんごのようになり、下を向いて小さく頷いた。 「おめでとさん!まぁ、あいつじゃ相当大変な式だったろうな。力も強いし、敏捷性も高い。それに触れ方も…」 「え?触れ方って?」 聞き返されてやべぇと思い、なんて言い訳しようかと焦った俺の耳に窓が開く音がした。 「例の兎のしきたりの時に教えて差し上げたのですよ。それよりも波。あなたの言葉、とても嬉しかったです。私もあなたと一生を共に、あなたを守りあなたの良きパートナーであり続けます。」 そっと跪いて波を抱き上げると、夏に一礼してから窓から出ようとした。 「おい!これからは扉から出入りしろ!そうじゃなかったらもう来させないからな!」 「これからも来ていいの?」 波が静の上から顔を輝かせる。 「お前らの兄弟の家だ。来れば風も喜ぶし、陸も水も嬉しがる。あんまり頻繁だとちょっとうざいけど、まぁ、静かに話してる分にはいいんじゃないか?部屋も余ってるし…」 「それって…泊まってもいいの?」 そう言った波の顔を見て、初めて我慢させていたことに気が付いた。そうだよな、そんなに近いわけではないこの家に頻繁に来てはいても、泊まれと言う陸たちの願いには頷かなかった。 俺の顔色を伺っていたのか… 「誰も来ない客室が一応はあるんだよ…二部屋な…」 俺の言葉にそれまで黙って聞いていた夏がいいのか?と大声を出した。 「別に、俺は部屋が二つ空いてるって言っただけだ。それに、1人は来てもいいけど1人はだめって言うのはおかしいだろうが…それと、俺も子供は結構好きだしな…」 そっと奥方の抱いている赤子を見ると、まるで俺達の言葉がわかっているかのようにきゃっきゃと声を上げて笑っている。 「雷、本当にいいの?」 いつの間にか風が水に肩を貸してもらった格好で扉の前に立っていた。 「風!大丈夫なのか?」 ソファから立ち上がり、水から受け取るように抱き上げるとそのままソファに座った。 「静、下ろして?」 そう言って波が床に足を着くと、風のもとに駆け寄ってきた。 「風、大丈夫?僕もね、大変だったんだよ!もう、本当に狼の式って…」 「でも、幸せだった?」 風に言われて、波が風ーと名前を叫びながら風に抱きついてきた。 「すごい幸せだったけど…けど!もう、しないからね!あ、少しはいいけど…でも、毎日とかはだめ!いい?」 静に向かって振り向きながら言う波に静が分かったと頷いている。 そういうのは二人だけの時にやれよと呆れる俺に、風がそっと耳元に口を近づけて囁いた。 「僕も、毎日は嫌だけど…でも、いいよ。」 ふふっと笑う風に、お前なぁとにやける顔を隠すように俯いた。

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