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結婚式-19

「さて…そろそろ私達はお暇しましょうか?」 夏の奥方が皆を見回してにっこりと微笑む。 「あ、あぁ、そうだな。」 夏が立ち上がろうとするのを止めるように陸と水がえー!と声を上げる。 「もう帰っちゃうの?」 陸はつまらないという声を出すが、村の長がこれだけの長い間村を留守にするのは流石にダメだろうと陸にまた来てくれるんだから、わがまま言うな!と一喝した。 「そうだよ、陸。あ、それとも陸が兎の村に泊まりにくる?」 波の誘いに一瞬乗りかけたが、ううんと首を横に振った。 「久しぶりだから…雷と風に会えたの…だから今日はやめとく…また誘ってくれる?」 陸の言葉に波の顔がまるで崩壊するんじゃないかと思う程にほころんで陸と水をぎゅっと抱きしめた。 「もうっ!本当に可愛すぎだよぉ!!僕にもこんな子達ができたらなぁ。」 「善処します。」 静がスッと手を上げようとするのを、波の手が慌てて止めた。 「まだいいよ!まだ…二人がいいから…欲しくなったら、ちゃんと相談するから…」 真っ赤な顔の波に分かりましたと上げかけていた手を下げて波の額に唇を当てる。 「いつでも仰ってください。」 「静は本当に波のことになると突き進むよねぇ。」 くすくすと風が笑う。夏は呆れたように、いい加減にしてくれと言いながら奥方をエスコートして玄関に向かって行く。それに付き従うようにガヤガヤと廊下が賑やかな声に包まれた。 それを一番後ろから見守るように歩いていると、すっと静が俺の横に並んだ。 「何だ?」 「私の触れ方、よろしかったですか?」 忘れていた…! 「おい!風から聞いたぞ!お前、一体どういうつもりだ?!」 周りには聞こえないように声を低くして唸る。 「嫉妬です。」 「嫉妬?!」 聞き返す俺にはいと頷く。 「嫉妬って何のことだ?」 「波が金狼のあなたに興味を持っています。私にはどうにもならない。その憤りをぶつけました。それと、波を押し倒しましたよね?」 波と最初に会った日に、風の感情を煽るのに波で一芝居打った事を思い出す。 「見てたのか?」 「私が波の側を離れるわけがありません。」 「あ…あぁ、それは確かに俺が悪かった…すまなかった。」 ペコリと頭を下げると静が足を止めた。 「どうした?」 「金狼とはそんな簡単に頭を下げるのですか?」 「いや…悪い事をしたなと思ったんだから、謝るのは当たり前だろう?あー、でも…風と暮らすようになってからかもな。あいつが俺を素直にさせてくれるんだよ。だからかな?」 俺の言葉に、再び目を丸くするとなるほどと頷いた。 「波が興味を持つのも風様があなたを信頼しているのも、なるほど。そうですね、私も個人として興味が湧いて来ました。」 「なんだよ?!なんか気味が悪りぃな。」 背中がぞくっとして静から離れるが、静の腕が俺の腕を掴んで壁に背中を押しつけた。 「この間の続き…しませんか?」 「…っざけるなっ!!」 ブンっと腕を振り上げた途端に俺の腕を離して飛び退けた静がニヤッと笑って冗談ですよと言った。 「二人で何話してるの?」 波が後ろを振り返って俺たちに声をかけ、風も微笑みながら俺達を見ている。 「ちょっとした義兄弟の挨拶です。」 「はぁ?!」 俺の声を無視してさっさと波の横に並ぶといつもの静の顔に戻って風に一礼し、扉を開けて外に出た。波を抱き上げて先に馬に乗せ、自分もその後ろに飛び乗ると、数人の部下に合図を送る。 馬車に乗った夏と奥方と赤子に手を振り、大きく手を振る波達を見送るとようやく静けさが戻って、俺はほっと息を吐いた。

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