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結婚式-20
「雷、疲れた?」
皆が見えなくなるまで手を振って見送ってから、家の中に向かって歩こうとした俺の腕に自分の腕を絡めるようにして風が尋ねてきた。
「まぁ…な。こんな風に賑やかなのは何十年ぶりだからな…少しはな。」
「僕も、ちょっと疲れちゃった。でも、皆に祝福されて、雷ともいっぱい愛しあえて…なんか絶対に無理だって思っていた事がいっぺんにかなっちゃって…夢の中にいるみたいな不思議な感覚。」
ふふっと笑って俺に体重をかけて甘えてくるのを、ほらと言いながら抱き上げ、水と陸が先に行って開けて待っている扉の中に入る。
そのまま4人でリビングに入り、風を抱いたままでいつものソファにどかっと座ると、水がはいと言ってコーヒーを、陸が祝いの席で出されていた食べ物をテーブルに並べ始めた。
「お前達も楽しかったか?良かったんだぞ?波の誘いに乗っても。」
そう言いながら風にパンを千切る。ありがとうとそれを食べる俺達を陸と水がニヤニヤ見ながらだってねぇと頷き合った。
「何だ?」
「だってさ、俺達が波達と行ったらまた部屋に篭っちゃう気でしょ?」
「そうそう…風の身体の事を思って、僕と陸とで雷から風を守ることにしたの!」
「え?」
風が食べていたパンを喉に詰まらせそうになって咳き込む。急いでコーヒーを飲ませながら背中を叩く。
「風、大丈夫か?」
「大丈夫…ありがとう。」
ようやく落ち着いて陸と水を見ると、まだニヤニヤとこちらを見て何だかコソコソと耳打ちしている。
「お前らなぁ…」
大声を出そうとした俺を阻むように陸が口を開いた。
「じゃあ、もしも俺達が波の誘いに乗っていたらどうしてた?」
ぐっと声が詰まる。
「それは…なぁ?」
風の顔を見ると風が顔を真っ赤にして、こっちを見ないでよと俺の頬をぐいっと手で押しやった。
「ほらねぇ。」
陸と水がやっぱりと言う顔で立ち上がり俺達に近付くと、水が風の手を引っ張り、陸が俺を風から離すように身体をソファの隅に押しやり、俺と風の間に二人が入り込んできた。
「きっついだろうが!なんなんだよ!?」
ぐいぐいと押してくる陸にやめろと言うと、陸がだってさとちょっと拗ねたように下を向いた。
「ずっと会えなくてさ…ようやく部屋から出て来たのに全然構ってくれないし…」
そう言えば、さっきも風に会いたいって駄々こねてたっけなぁ?
「悪かったよ…まったく…拗ねるなって。」
ぐしゃっと陸の頭を撫でると、陸が拗ねてねぇって!と言って怒るが、頭を手に擦り付けてくる。
「風、僕も撫でて!」
「いいよ!いつもありがとうね。水。陸もありがとう。」
風が少し手を伸ばして水と陸の頭を撫でる。
「…久し振りにここで寝るか?」
俺がふっと思いついて言うと、陸と水が目を輝かせて俺と風を見た。
「いいの?風もいいの?」
いいよとにこにことした笑顔で風が頷くと、陸と水が飛び上がらんばかりに大喜びするのを見て、まだまだガキだなぁと思うが、風も嬉しそうだしなとつい口が緩む。
「まずは腹ごしらえしてからな。それと、この一週間をお前らがどんな風に過ごしたのか教えてくれるか?」
うんと2人が大きく頷き、俺達にこの一週間の事を話しながら食事をし、部屋の片付けをしてからマットを敷く。
いつものように俺と風が端に横になり、間に陸と水が潜り込む。
「来た時の事を思い出すな…」
しばらく喋ったり小突きあったりしていたが、騒ぎ疲れたのか二人の寝息がようやく聞こえてきた。それを聞きながら独り言のように呟いた俺の言葉にそうだねと風の声が返ってきた。
「あとどれ位こうやって…いや、考えても仕方ないか。」
「うん…でも、最期のその時まで僕だけは雷と一緒だからね。」
「あぁ…そうだったな…お休み、風。愛してるよ。」
「お休み…雷。僕も愛してる。」
静かな部屋で皆の寝息を聞きながら天井を見上げる。
また俺達の生活が始まるんだな。
少し騒がしくなるかもしれないが、それもそう悪いものではないだろう。
こうやって静かな日常が愛しいと思えるしな。
目を瞑り、眠りに身を任せる。
時計だけが俺達を見守るように小さく音を刻んでいた。
(終)
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