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里帰り-2
金狼とその運命の相手の伝説をきちんと言い伝え、金狼が生まれた時にはどこかに同じように生まれ出た運命の相手を探しに出す事。
金狼が連れ帰った運命の相手の種族が何であれ、銀狼の村はその者を受け入れる事。
これを伝える事が、今回俺が自分の村に帰る理由。
帰りたくはない。帰らなくていいなら今すぐにでも風の元に戻りたい。
でもこれを伝えなければ、再び金狼が生まれ出た時、もし伝説を何かの形で知って黒兎を見つけられたとしても、その種族によって俺達と同じように村から追い出されるように逃げ出すか、何も知らぬまま相手を探し出す事もせずに心の平穏を感じることのないままの人生を生きるか。
それは辛すぎる。
俺を見る家族や村の者達の目。
邪魔くさいモノを見るような目。
一度暴走すれば凶暴化した銀狼となり、それこそ誰彼構わず傷つける。
そんな金狼に唯一与えられた心の拠り所が、黒兎。
金狼の全てを受け入れ、心を安定させてくれる。
俺の風……
会うまでの間の人生がまるで嘘のように平穏と安定を俺にもたらしてくれた。
それを全ての金狼にも与えてやりたい。
そしてそれは黒兎のためでもある。
金狼がいつ迎えに来てもいいように、黒兎は恋愛も結婚も御法度。
たった一人で寂しくいつ来るか、いや、大半は来ない金狼を待ち続けて死を迎える。
「僕は雷が迎えに来てくれて幸せだよ。」
風の微笑む顔に、つい口元が緩む。
俺も、風も出会えたから幸せに今を生きている。
だから、これから生まれてくる金狼と黒兎にも同じように幸せな人生を生きて欲しい。
これが俺と風の願い。望み。
兎の村には種族と村の場所を隠すことを条件に、銀狼の村に伝える許可を貰った。
あとは……
一応、村には俺が大事な話をしに村に行くと連絡をした。
先日その返事が来て、こうやって村に向かっているわけだが……
やはり重くのしかかってくる岩のような気が俺を潰そうとする。
村には風が連れ去られた時に戻ったきり。
あの時は弟の光の肋を派手に折り、向かってきた者達を誰彼構わず傷付けた。
それからは俺達の居場所は把握していながらも手出しはなく、微妙なバランスの中で暮らしてきた。
今回こちらからその均衡を崩す事で俺達と村との関係にどんな波風が立つのか予想できず、それも俺の足を重くしていた。
「さっさと話して、さっさと帰る……そうだ。」
うんと頷いて駆けている足を一層早くした。
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