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里帰り-3

何時間走り続けただろうか。 ようやく見えてきた懐かしい風景に少しだけ足取りが遅くなる。 前回来た時は懐かしさを感じる余裕もなく走り続けたので、十数年ぶりに見る変わらない景色に熱いものが自然と込み上げてきた。 「ここらで着替えるか。」 そう呟いて服を地面に置き、その中に銀狼の体を沈める。 ゴソゴソと人型に戻り服を着て立ち上がった瞬間ブワっと網がかけられ、木々の間から出てきた何十人もの男共が体にのしかかってきた。 「くそっ!っざけるな!!光!!光ーーーーっ!!!」 騒ぎ立てる俺の耳に懐かしくも憎たらしい声が届く。 「雷……兄さん、久しぶり。」 「久しぶりの挨拶にしちゃあ、ちょっと荒っぽすぎるんじゃねぇか?」 むさ苦しい男どもの下敷きになっている俺を蔑むような目でチラと見て視線を外すと、連れて来いと男達に命じて自分はさっさと村に入って行った。 「失礼します。」 声をかけたのは桐。俺と光の兄弟分で、陸か水の父親。 「おい、どういう事だ?!俺は話をしにきただけだ。村に入るつもりも、ましてや城に行くつもりもない。ここで光に話せれば、俺はそのまま村に何の干渉もせず回れ右して帰る。だから、さっさとこの網を退かせ!光を連れ戻して来い!」 怒鳴り声と唸り声を上げる俺に周囲の男共は怯むが、桐は慣れ切った俺の大声に表情すら変えない。申し訳ありませんと頭は下げるが、網はそのままで桐は男達に指示を出し、俺は男共の肩に担ぎ上げられて結局は城に向かう為、懐かしの銀狼の村へと入っていく羽目になった。 この際、腹を括るかと城までに続く道すがら、変わらない村の様子を見ながら桐に声をかける。 「おい、これはどういう事だ?俺が城に行くつもりも村に入るつもりもないって事は、お前達側に連絡した時に明記したし、日時と共にその事についても了解したと返事したよな?俺が外で光と少し話をしたいだけだって。」 「私には光様の心の内までは……ただ、雷様が来られたらどんな手を使ってでも城に連れて来いという命令ですので、申し訳ありません。」 「ったく……俺は用事を済ませたらさっさと帰りたいんだよ。大体、あんな事をした光を俺はまだ許せていない。ただ、今回ばかりはきちんと話を聞いて貰いたかったから、風もそれを望んでいたし。だから気持ちはどうあれ話をするという事だけでここに来たんだ。それ以外の気持ちは微塵もない。」 「申し訳ありませんが、城に連れて来いというのが今の王である光様の命令ですので。」 いくら愚痴を言っても状況が変わらないのは分かっているが、何しろ目立つ格好で村の中を連れ歩かれている俺としては、何か言っていないと恥ずかしさでどうにかなりそうだった。 「なぁ、逃げないからさ、下ろしてくれないか?」 大の男がジタバタするのも情けないし、大人しくしてはいるが、本当のところジタバタしてでもここから下りたい。 昔馴染みの顔が俺を見て顔を明るくしたり、笑ったり、挙句の果てには拝まれたり……もういい加減、我慢の限界だ。 「マジで、変わっちまうぞ……」 グルっと言う唸り声にそれまで能面のような顔だった桐の表情に焦りが浮かんだ。 「申し訳ありません。これも命令なんです。どうかもう少しだけお許しを。おいっ!走れ!!」 桐の一声に俺を担いでいた男共がはっ!と一声上げると、一気に駆け出して村を通り抜け、城へと入った。 俺は急に走られたせいで頭がガクンガクンと揺さぶられ、下ろされた時には少しふらつくほどだった。その腕を自分の肩に回すと、桐が俺を支えながら城にある光の部屋へと歩き出した。

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