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里帰り-4

「おい、あの部屋に行くのか?」 桐と歩く城の廊下。あの時必死で駆け抜けた記憶が蘇る。 「いいえ、あの部屋は今は使っておりません。」 「そうか……」 「こちらが今の光様の部屋になります。失礼。」 そう言って俺から体を離すと、俺の服をささっと整えてから自分の服も整え、コホンと軽い咳払いをしてから扉をノックした。 「入れ。」 中から聞こえる憎たらしい声に桐が静かに扉を開けると、俺を中に入れて扉をそっと閉めた。 シンと静まり返った部屋。煌びやかなソファに横たわって座り、おれにその位の高さを見せつけようとでもしているのか。そんなガキじみたことをしないと俺と対等に話もできないのかと苦笑いしそうになる。 お前が俺と風、水にしたことを許すつもりはない。実のところ、俺が許す許さないの問題ではない。これは風の心の問題だ。俺が今ここでこいつを噛み殺しても、風の気持ちが軽くなるわけじゃない。 そう心に言い聞かせながら、光の顔をじっと見つめた。 「何だ?何だよ?俺に言いたい事があるんだろう?!俺は王だ!この銀狼の村の長だ!いくら金狼になれたって雷は、兄さんは今はただの狼だ!それを王の俺に王の部屋で謁見を許しているんだ。跪くくらいしろよ!」 バカか!? 「跪けば満足か?お前の足にキスでもくれてやろうか?そうすれば俺をお前が自由にできるとでも?バカか?俺は風との事……いや、この先の金狼に関わる事でここに来ただけだ。お前と王様ごっこするつもりなんかねぇよ。」 「バカ……って、王に向かって無礼な!桐!雷を捕らえろ!」 困った桐が俺の目を見てどうしましょう?と訴えてくる。 「しらねぇよ!はぁ。やっぱり来るんじゃなかったわ……言いたいことは桐に言っておくから、後で聞いてくれ。俺は帰る。」 桐!と顎をしゃくってこちらに来るように促す。 「行くな!聞くな!雷はそうやって、いつもいつも……俺をバカに……して……俺は王なんだ!お前なんか、俺を足蹴にした罪でこの村に足を踏み入れた瞬間、処刑にできたんだ! 俺は心が広い王だからな、そうはしなかっただけで、出来たんだからな!」 訳のわからない事をまるで子供のように喚き続ける光にため息を吐く。 「だったら、その心の広い王様、さっさと俺を風達の元に帰してくれないか?」 「ダメだ!雷は俺とここで暮らすんだ。俺が雷の為に沢山のパートナーを用意しておいた。だから、風なんかいなくても大丈夫だ!雷を処刑しない。その代わり、雷はここで、狼の村で俺と一生暮らすんだ!」 「はぁ?バカか?俺の怒りは何人、何十人にぶつけても、意味がないんだ。風じゃなきゃどうにもなんねぇんだよ!いくらヤったって、心の中に渦巻く怒りを落ち着かせられるのは風だけだ。俺の居場所はここじゃねぇ!俺を怒らせるな!」 俺の怒鳴り声に光の体が恐怖で震えるが、それでもぐっと俺に向き合って口を開いた。 「だったら処刑だ!俺から離れるなら死んでるのと一緒だ。むしろ風にその体を渡すくらいなら、俺がその遺体を手元に置いておいてやる。桐!雷を捕らえろ!」 こいつ……マジでおかしくなっちまったんじゃないか? 俺の顔を見た桐がどうしたらいいかと再び俺を見上げる。 まったく、勘弁してくれよ…… 天井を仰ぎ見る俺に光の怒鳴り声。 「桐!捕らえろ!!」 「っるせぇな!自分で出来もしない事、他人様に頼んでんじゃねぇよ!ここでこのまま金狼になってやろうか?それとも今すぐ暴走するか?もうこちとらその準備万端だっつーの!いいぜ!盛大な兄弟喧嘩……やるか?!」 「ダメ!!」 聞き覚えのある声に振り向いた俺の目に、たった半日しか離れていないのにも関わらず懐かしい顔。 「はぁ、もう、風ってば早過ぎだって!あ、雷!」 その風の後ろからひょこっと陸が顔を出した。 「お前ら何やってんだ?いや、風、お前……」 どうしたらいいのか、嬉しいのか怒りたいのか、心が右往左往する。 そんな俺に向かって風がスタスタと近付き、ぎゅっと抱きしめた。 「少しは落ち着いた?」 すーっと荒くれ立っていた心に心地良い風が吹く。風とならたったこれだけで俺の心は安定する。 「な……何で、お前が……」 光が怒りに顔を真っ赤にして風を指差す。 「そうだ!風、何で来たんだ?お前にここは嫌な思い出しかないだろう?無理してまで来る必要なんかないって、俺は言ったはずだ。むしろ、お前には来て欲しくなかった。」 風がされた事、した光、この場所で再び光と会わせることで風の心の傷が再び開いたら……あの時のようにまた風が辛そうな顔で俺達の輪からそっと立ち去っていくようになるのではという恐怖が俺の心を襲う。 「僕はね、雷。僕の心のままにここに来たんだ。ここで起こった事もした光の事も僕にとっては辛くて苦しい、思い出したくない過去だけど、それで雷が苦しい思いをしているのは嫌なんだ。雷にとって光は唯一の血の繋がった家族でしょ?僕もね、夏や波とああやって普通に会って話ができるようになって、やっぱり良かったって思ってるんだ。だから、雷にも同じように思って欲しい。」 「でも、俺は……無理だ。お前を傷付けた光を許せない。今だって少しでも気を抜いたら暴走して、あいつの首に噛みつきそうになってるのを我慢してるんだ。」 「雷……僕の頼みでも、ダメ?」 風がここ一番って時の顔で俺を見上げてくる。 「お前なぁ……その顔は反則だっていつも言ってるだろうが!」 「だってさぁ、僕、雷には幸せになってもらいたいんだ!いつか僕達みたいに家に光が来てさ、皆でご飯食べたり、水はまだちょっと怖いって言うけど、光の事をちゃんと知ればきっと好きになれると思う。それに……付き添いで桐さんも来られるし……。」 「風っ!」 まさか風がそこまで考えているとは思わなかった。確かに光が家に来れば一人でというわけにはいかない。付き添いには桐が来るだろう。そうすれば陸と水に会える。暫くはお互いギクシャクするだろうが、それも時間が解決してくれるだろう。 「雷、僕は水と陸を手放す気も親子としての絆も渡す気はないよ。二人とも、僕達の大事な可愛い息子達だ。でもね、だからこそ見てもらいたい。こんなにいい子に育ちましたよって。それが僕の誇りなんだ。」 風の言葉に我慢できずにぎゅっとその体を抱きしめた。

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