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里帰り-6
「それで?」
ようやく皆が落ち着き、光が俺に向き直った。
俺はここに来た目的を話す為、光の目をじっと見つめて話し出した。
「俺は金狼としてここに来た。話というのもこの先の金狼達の人生に関わることだ。」
しかし、話し出したばかりの俺に向かって光が突如叫び出した。
「金狼、金狼!!そうだよな!俺は金狼でもないし、あんたのお下がりで王になった身だ!皆があんたが王なら良かったのにって、金狼が王の方がいいって!あぁ!そうだよな!!金狼様は俺みたいなただの銀狼とは違ってお偉いもんな?だったら俺なんかにお伺い立てず勝手に何でも好きなようにすればいい!」
「光っ!!」
まるで駄々っ子のような光の言葉に陸でさえため息をつく。
「本当に雷の弟?」
陸は、どうしてそう油を注ぐんだ……
陸に黙れと言うようにキッと睨むと、コソッと水の後ろに隠れる。
まったく、こいつは……悪気がない分、タチが悪い。
はぁとため息をつくが、光の悲痛な叫びにビクッと体が揺れた。
「そうだよ!!俺は雷の出来損ないの弟だ!!雷がいなきゃ……俺は何も……」
光がクソっと言ってソファから立ち上がり部屋の壁に向かうと拳を打ちつけた。
「光様っ!!おやめ下さい。」
桐がすかさず立ち上がって光の元に駆け寄ると、その腕を掴む。
「うるさいっ!!誰も彼も雷!!雷!!雷っ!!!俺のやる事、決めた事全てを雷だったらこうする、雷だったらああするって!!挙句の果てにはやっぱり金狼の方がって……兎だろうが一緒にここに住まわせてって……自分達で二人を追い出しておいて!!俺から雷を奪っておいて!!」
光の心の叫びに俺も風も何も言えなかった。
俺達は追っ手から逃げていたとは言え、二人でいた時はそれだけで幸せだったし、子を育てるという思いもかけないサプライズもあった。
二人きりだった家族が四人になり、にぎやかになった俺たちの生活に今度は風の兄弟やその家族達も加わり、俺達はあたたかさと幸せを感じて生活していた。
だが、その一方で光は……
光と俺とは年が離れた兄弟だ。どちらかといえば甘えん坊で俺がいた頃はいつも俺の後ろに隠れ、ぎゅっとその小さな手で俺の服の裾を握っていた。その手はいつも震え、何を考えているか分からない大人達から俺がこいつを守らなければとずっと思っていた。
だが、俺の体が金狼へと変化した事で俺と光の状況は一変した。それまでは次期王として俺を担ぎ上げていた奴らが、俺のあまりの凶暴さに閉口して皆して光を次期王とすべく暗躍し始めた。
だが、その頃の光は今の陸や水よりは年上というくらいで、それでもこいつらよりは精神年齢も上だったし、頭もいい方だった。それでも既に王の片腕として村を統治していた俺とでは比べるまでもない。しかも金狼……その頃の状況は容易に想像がつく。
だが……
「もう、俺が出て行ってからそれなりの月日も経った。その間にどういう状況だったとしても、お前はこの村を守ってきたんだ。お前がこの村の王だよ。」
俺の言葉に大人しくなった光から桐の体が離れた。その瞬間、光の体が激しく揺れた。
「……じゃない……そうじゃない!!俺は何もしていない!!全部、桐がやったんだ!桐が俺に色々と教えてくれて……だから俺は何も守れていない!!」
「光様、それは違います。」
断固とした口調で、激しく体を震わせている光を桐が諭すように話し始めた。
「確かに、雷様が出て行った最初の内は私が光様のお手伝いをさせていただきました。しかし、それも数年。私の考えよりも素晴らしいお考えによって、この村を守られてきたのは誰であろう、光様です。もっとご自分に自信をお持ち下さい。」
桐の言葉にそれでも!と反論しようとしたが、桐はそれを一言で黙らせた。
「あなたを育て上げた私の顔に泥を塗る気ですか?」
光はぐっと唇を噛んで俯き、その体を桐が支えて静かにソファに座らせた。
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