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里帰り-9
「結局……俺は一人か……」
ぼそっと光が呟いた。
「俺も雷と行きたかった。雷とこの村を出て、風と3人で……なのに俺はこの村から出る事も叶わず、この村にがんじがらめに縛られて……俺だって、俺だって雷とずっと……」
「光様……」
光の言葉に僕も陸も何も言えずにいた。ふざけるなって、お前の言い分なんか聞きたくもないって言いたかった。だけど、僕達は雷とずっと一緒だった。強くて面白くて、時々怖くて、風の事が大好きな雷とずっと一緒に生きてきた。僕と陸の最高のお父さん。
だから、きっと光にとっても雷は特別で……だから雷をなんとか自分のモノにしたかったんだ。
「お前、家族いないのかよ?」
陸が光に向かって尋ねた。
「家族……母様は小さい時に病気で……父王は雷が出て行ってすぐに……」
「そうじゃなくて、結婚してるのかって事!それとか子供とか?」
陸が考えながら喋る。
「俺にはいない。俺は雷だけいればいい…雷だけが家族だ。」
俯いたままで喋る光の小さな声。僕達よりもずっと大きい大人なはずなのに、とても小さな子供のようだ。
「でもさっき風と3人でって言ったよな?」
「俺は別に雷の幸せを取り上げたいわけじゃない。それに風がいれば雷が金狼になる前の優しかった雷に戻れると聞いていた。あの頃の雷と暮らせるなら俺はむしろ風にいて欲しい。」
光がぐすぐすと泣きながらかけられた毛布を頭まで被る。
「俺の家族を取り上げたのはお前達じゃないか?!お前達のいる場所が本当は俺のいる場所だったはずなんだ!!返せ!!俺の雷と風を返してくれ!!」
「ガキ……」
陸の言葉にさすがにダメだよと焦るが、陸はおかまい無しに言葉を続けた。
「ガキ!!雷と風だけが家族?だったらなんでああいう事をすんだよ?!前の時も風にあんな酷い事しておいて。自分が王様でこの村の一番偉い人なんだから、雷達を許せば良かったじゃん。そうすれば雷だってあんた達から逃げ回ったりしなくてすんだのに。」
陸の正論に僕も桐もなるほどと頷いてしまう。
「偉い大人なくせに許す事も謝る事もできないなんて、俺よりもガキじゃん!雷だったら拳骨3回……いや、5回分だな!」
「俺、叩かれた事ない……」
そろっと顔を毛布から出す光に陸がツカツカと歩み寄り、止める間も無く腕が振り上げられ……
ゴン!!
鈍い音が部屋に響いた。
「いっ……何すんだ?!」
頭を抱えた光に駆け寄る桐。
ゲラゲラと笑う陸がもう一発と再び腕を振り上げた。
「そこまで!!」
え?!と声の聞こえた方へ振り向いた僕の目に、さっき部屋に入ってきた人に支えられた風が見えた。
「風!!大丈夫なの?!雷は?」
駆け寄ってその人から風を受け取って支え、そばの椅子に座らせた。
「ありがとう、水。僕が生きているんだから、雷も大丈夫だよ。僕達はその生死も一緒だからね。陸もこっちにおいで?」
驚きすぎて固まっている陸に腕を差し出すと、陸がみるみる泣き顔になって風に向かって駆け寄ってきた。
「陸、ストップ!!」
急いで風の前に立ち塞がる僕に、なんだよと頬を膨らませる。
「風はまだ具合が悪いんだよ?それなのに陸が力一杯抱きついたら風はどうなる?」
僕の言葉にあ、と言ってから分かったと頷くとゆっくりと歩き出した。
そして、優しく風を抱き締める。
「風、大丈夫なのか?どこも痛くない?辛くない?」
その体を労わる陸の頭を優しく風が撫でる。
「ありがとう。僕は大丈夫。雷も絶対に大丈夫だから。」
優しく微笑む風に僕も我慢できずに抱きついて泣いた。
「私がついていながら申し訳ありませんでした。」
静かに桐が頭を下げる。光は毛布の端から目だけを出してこちらを見ている。
「いいえ、大丈夫です…それよりも、光?」
僕の呼びかけに光の体がビクンと跳ねる。
抱きついたままの陸と水にごめんねと言うと、その体を離して椅子から立ち上がった。
少しよろけた僕に水がすかさず肩を入れて支えてくれる。
「ありがとう。」
そう言って水に支えてもらいながら、光に近付いた。
「ごめんね、光。雷を奪っちゃって。でも、雷が人生を平穏に生きるためには僕じゃなきゃダメなんだ。」
「分かってる!!分かってる……だから、風を殺せなかった……」
「そうか。光は優しいんだね。」
「雷の為だ!!」
毛布から顔を出して僕に向き合うその目に雷の面影が見えた。
「光?光は僕と雷と一緒で良かったの?」
「お前はただのおまけだ!!」
光がプイッと横を向く。
本当にやる事が雷とそっくりだなぁ。
すぐに拗ねると横を向く雷を思い出してクスッと笑った僕に光が呟いた。
「おまけはずっと一緒なんだろ?俺も雷のおまけになりたかった……」
「光……」
自然と体が動いていた。あの時感じていた恐怖も、苦しく辛い思い出も心から消え去っていた。
「風……!!」
ぎゅっと抱きしめた光の驚きのあまり固まった体が、背中をさする僕の手でゆっくりとほぐれていく。
「もう、過ぎた時間は戻らないけれど、僕達にはまだたっぷりと時間はあるんだよ?雷をここに住まわすことはできないけれど、光と会うことはできる……そうやって僕達との時間を過ごそう?」
「俺……雷に会いたかった。風に笑って欲しかった。家族として迎え入れて欲しかった。」
「うん。どんな事があっても雷と光は家族だ。血のつながった大切な家族。だから僕にとっても光は大切な家族だよ?」
「……めん……ごめん……なさい……」
僕の胸の中で泣きながら謝り続ける光の背中をさすりながら、ふと顔を上げると、桐さんがありがとうございますと呟いて頭を下げた。
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