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里帰り-10
「風っ!!!」
ガバッと起きた視線の先、薄明かりの中でいつもと変わらぬ微笑みで俺を見つめる顔。
それが少し歪んで俺の寝ているベッドのシーツが濡れていく。
「大丈夫だ。俺は大丈夫だから……風?」
手を広げるとその体を俺に預けるように胸に顔を埋めた。
「お前こそ大丈夫か?」
気を失う寸前に見た風の状態を思い出して尋ねる俺に、うんと頷く。
「そっか……なら、良かった。ところで、あれからどれくらい経った?」
周囲を見渡しながら尋ねた俺に風が体を起こして一週間だよと言った。
「ここがどこかは分かる?」
「……俺の部屋だ……今でも出て行ったまんまにしてあったのか……」
光の悲痛な叫びを思い出す。
「帰ってきて欲しかったんだね……光と僕、仲直り……って、元々あんまり知らないから仲良くなったって言った方がいいかな?」
「え?!」
あまりの驚きに言葉が出てこない。
「僕ね、光に色々と聞いたんだ。そしたらさ、僕とも一緒に暮らしたかったって。光にとって僕は雷を連れ去った憎たらしいやつではなかったみたい。雷が昔の雷でいられるなら、むしろ僕にいて欲しいって。雷が幸せならそれでいいんだって!なんかさ……可愛いよね?」
「はぁ?!ちょっと待てって!あいつはお前に……その……酷い事をしたし、俺を刺したんだぞ!?」
傷が開くよと言いながら俺をベッドに横にして風がだってさと答える。
「光の辛いのとか苦しいのとか知ったらさ、そうだよなぁって。僕達はこの村から追われたけれど、そのおかげで幸せな時間を過ごせたって言うの、雷だって反論はないよね?それとは逆に光は桐さんみたいな人がいたとは言っても、いきなり雷に放り出されて、訳もわからないまま王になって……それって本当に大変だったと思う。だからさ……」
はぁ……まったく、お人好しにも程があんだろう……
「で?」
俺の促すのにうーんと少し天井を見上げてから視線だけ俺に落とす。
「僕だけじゃないよ?水も陸も雷が寝ている間にいっぱい光と話してさ……だから……ね?」
「ね?じゃないだろうっ!聞いてるのは俺だ……っ!!」
大声を出した事で再び傷が痛み、顔が歪む。
「雷!?大丈夫?痛む?」
心配顔で俺の体に触れようとした風の腕をぐいっと引っ張って唇を合わせる。
「ちょっ……ダメ……ってば……んんっ!」
「ダメって言いながら、もう腰が揺れてっぞ!ほら、俺は動けないんだからさ、跨がれよ?」
「ダメ……だって……ばぁ……」
いつもよりも頑固だなと舌を絡めようとした時、陸のぼやけた声が聞こえてきた。
「いい加減にしろって!えろえろ雷!!」
「風は返して貰うね!雷はまだ傷がちゃんと塞がってないんだから寝てて下さい!!」
合わさっていた唇が離れ、明かりが部屋を照らし出し、笑顔の陸と水の顔が見えた。
「お前ら……いたのか……」
邪魔くさそうに言ってはいるが、実のところ二人の顔が見られて口元がにやけてしまいそうになる。
それをバレないように皆から反対側を向く。
「ふふ……雷……?」
風がバレてるよとでもいうように笑って俺の背中を突っついた。
「っるせ!」
照れ隠しに少し強めの口調で言うが、笑っている風はその手を止めようとしない。
「いい加減に……っ!?」
突いていた指が離れてコツンと頭が俺の背中に当たる。
「本当に良かった……雷……」
「ああ。」
「雷ーーーーっ!!」
体にどんどんと重さが乗っかって、俺を6本の腕が抱き締める。体にかかる重さ、抱き締める腕の強さに、生きていることを実感する。
「ったく、お前らは邪魔だってぇの!風だけ置いてけ!」
そうは言っても退かす気はなく、笑い合う3人の声を聞いているうちに、俺はいつの間にか眠りについていた。
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