(夏休みに日本旅行中のお話) 珊瑚が撮影許可をもらったのは郊外にある水族館。翔はせっかくだから家族で出掛けようとレンタカーを借りてレニとサチも連れ出した。 凪や紅葉たちはいつもこどもたちと一緒なんだから預けて2人で出掛けていいよと言ってくれたが、よく考えたらあっという間にこどもは大きくなってしまうし、そしたら家族旅行もなかなか行けないので夏休みの想い出にしたかったのだ。 「珊瑚はお仕事があるからね。 ３人で見て回ろう。 お昼に合流出来る？」 「ん。 連絡する。 ちゃんと見といてよ？」 「カケ、迷子になっちゃダメよ！ ちゃんとおててを繋いでね。」 珊瑚の真似なのだろう、サチに注意される翔。 後ろでレニもくすくす笑っている。 「はぁい…(苦笑)」 撮影頑張ってね、と珊瑚を送り出し、レニと翔はサチを真ん中に手を繋いで館内を回った。 夏休みだが、平日の朝イチで郊外のためかそこまで混んでなくてゆっくり観ることが出来る。 「ピンクのお魚どこ行っちゃった？」 「ピンク？ えーっと……！ あ！さっちゃんあれじゃない？」 「…この子じゃない…。 ピンクと黄色だった。」 「サチー、これ？」 レニも探してくれて見つけた魚を指差すがサチは首を振る。 「さっきのお魚さん…！いたっ！待ってー！ カケ、あの子連れてきてっ！ まだおててが描けてないのよ！」 サチは絵を描くことが好きで、今日も小さめのスケッチブックと色鉛筆を持ってきて気に入った魚がいるとデッサン(というかお絵描き)をしているのだ。 「えっ?！ どれ…？ 待ってねー！ えー、連れてくるってどうやって？ 餌とかもらえないかな……。」 真剣な彼女に翔もなんとかしてあげたいが、自由気ままな魚が相手ではどうすることも出来ない。 オロオロとする翔を横目にレニはペンギンが見たいと言い始めた。 「すぐ隣だから先に見て来てもいい？」 「いいよ。 さっちゃんが描き終わったらそっち行くけど、念のためスマホ手に持っててね。」 「はぁい。」 なんとかサチを宥めつつ、お絵描きを見守る翔。 「カケ…お土産にお魚さん買える？」 「本物は難しいけど、ぬいぐるみとかキーホルダーならあると思うよ。」 「ほんと？ 買ってもいい？」 「いいよ。 後で買おうね。 珊瑚には内緒でなんでも買ってあげるよー！」 小遣い制なのでめちゃくちゃ頑張って貯めてきた。 自分1人だった時は好きなものを好きなだけ買えてた自由があったが、今の方が満たされていると実感している。 珊瑚や家族の笑顔が見れたらなんだって頑張れるのだ。 「いいの…？ サチ、アイスクリームも食べたいな…。」 「いいよ。 ご飯を食べてから食べようね。 お子様ランチもあるみたいだよー。」 「うんっ！」 共に暮らすようになって少しずつ小さなワガママを言ってくれるようになったサチ。 翔はそれが嬉しくていつもつい甘やかしてしまう。娘に激甘な光輝の気持ちが良く分かるようになった。 …珊瑚には怒られるけど…(苦笑) レニちゃんは何が食べたいかなー？と彼女の方を確認すると…若い男が何やら話し掛けていた。 もしかしたらナンパかもしれない…。 水族館でナンパなんてそうそうないだろうが…でもレニは美人だ…。 「レニちゃんっ！ だからスカート短いって言ったのにっ！ さっちゃんもういい？ １回向こうに行くよっ！」 大慌てでサチを小脇に抱えるとレニのいる方へ走って行く翔。 「レニちゃんお待たせっ！ ……こちらどなた？ 君、うちの子に何か用事？」 「あー…何でもないっス。 …じゃあまたねー。」 大学生くらいの男は翔を前にビックリした表情を見せたあと、レニに向かって手を振りながら去って行った。 ドイツでは小柄に見られることもある翔だが、日本では普通に大柄な方だし、ドラムで鍛え上げられた身体はガッシリとしている。 「大丈夫？ 何もされてない？」 「うん。話してただけよ。」 レニは何て事はないとすぐにサチとペンギンを見始めた。 「フゥー…危なかったぁ…。」 珊瑚にバレたら怒られるとヒヤヒヤする翔。 レニはスタイルも良くて、頭も良くて、スポーツも出来る完璧な美人だし、サチも美少女と言えるくらいに可愛い。素直だし、サラサラの金髪も美しく、何年かしたらレニのようにナンパもされるだろう。 「おとーさん心配…。」 カップルとファミリー向けだと思っていた水族館でも気は抜けないなと気付き、パートナーの珊瑚のことが心配になってきた。 とにかく美人で、脚は長いし、腰付きがセクシーで…透明感があって… まだ若いパートナーを持つ翔は苦労が絶えない。 もしかしたら…と思って翔たちが移動してきたのは珊瑚が好きなクラゲの水槽の前。 ここの水族館ではないが、クラゲの水槽の前でキスをして、写真を撮った想い出がある。 「わぁー、ふわふわ！ いっぱい！」 「綺麗だね。」 サチとレニも気に入ったようだ。 翔は2人から離れないように気をつけながら珊瑚を探した。