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――ジェッタのおかげでなんとか遅刻は免れてひと安心。
それなのに、僕ってほんとにドジだよね。
教室に向かう途中の階段に躓(つまず)いてしまった。
「うわわわっ」
身体が傾いて、そのまま地面へと顔面衝突かと思いきや……。
あれ?
痛くない?
それに僕のみぞおちあたりを誰かが押さえてくれている。
「あ、っぶね。大丈夫か?」
知った声が聞こえて顔を上げると、そこには黒江 刻杜 くんがいたんだ。
――ああ、黒江くんは今日もずっと格好いい。ちょっぴり短めの艶やかな黒髪に、目鼻立ちがはっきりした整った顔。長い睫毛の中にある一重の漆黒の目は吸い込まれそうだ。
「おい?」
ああ、今日が始まって何回目だろう。
またもやぼーっとしてしまっていた僕に黒江くんが呼びかける。
「あ、は、はい。だっ、大丈夫です。ありがとうございます」
ぺったんこの鼻からずれ落ちた黒ブチ眼鏡のフレームをぐいっと上げてお辞儀をする僕に、だけど黒江くんは眉間に深い皺を刻んだ。
「……また手、擦りむいてるし」
顔、顔が近い!!
僕の息がかかっちゃうよっ!!
綺麗な顔をずっと近づけてくるからたまらない。
おかげで僕の心臓はバクバク言ってる。
「へっ、平気ですっ! あの僕これで」
失礼します。そう言おうとして腰を上げた瞬間だった。
ふいに僕の身体が宙に浮いたんだ。
同時に男子たちが騒ぐ声が周囲から聞こえて来る。
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