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 黒江くんは七瀬くんには片想いだ。だから誰でも黒江くんに付け入る隙はあると思う。  だけど――めちゃくちゃハードルが高すぎる。  だって、黒江くんが好きな子――つまり七瀬くんはすっごく可愛い子なんだ。  えっと、可愛いっていうのは女の子みたいにっていうわけじゃなくてね、男の子特有の元気いっぱいっていう、活発な子っていうのかな。  目もぱっちりしていてまつ毛も長くて……。  彼に比べて僕の容姿ってば――最悪なんだ。  僕は、黒江くんと同じ黒髪でも、綺麗じゃない。黒縁眼鏡にのっぺりした平坦な日本人特有の顔。性格もドジで間抜け。背だって155センチで寸胴だし短足だし。運動神経もない。  そんな僕が黒江くんを振り向かせる力はない……。  ああ、どうしよう。好きな人がこんなに近くにいるのに泣きそうだ。  視界がじんわりぼやけてくるよ。  苦しくて涙目になってしまう……。 「どうした? 痛いのか? もう少し我慢な」  ――あうう。  黒江くんはやっぱり優しい。  こんな何の取り柄もない一般人の僕にまでこうして親切にしてくれるんだ。 「先生……っていないし」  保健室に連れて来てくれた黒江くんは前と同じように僕を椅子に座らせた。

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