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『ふむ、そろそろ頃合いだな。おれの子を宿してもらうぞ……』  モンスターは満足そうに、黄色い目をニタリと細め、笑った。  電柱のように太い触手の一本が口の中から出てきたと思ったら、僕の孔目指してゆっくりうねりながら伸びてくる。 『子を宿してもらう』モンスターはそう言った。  だからこれはきっと、あれの……。  理解した僕は、強く目をつむる。  出したいと願ったのは僕だ。  だけど、好きな人じゃない――しかもモンスターに抱かれるなんて。 「っひ、っぐ」  覚悟した瞬間だった。 「魔女の力を吸収しすぎて暴走したか」  誰かがそう言うと、野太いモンスターの呻き声が響いた。  知っている人の声が聞こえたけれど、目をつむっているから誰なのかわからない。  目を開けると、やっぱりカニの姿のモンスターは左右真っ二つに斬られていた。  そうかと思えば、霧になって消滅する。  何者かの手によってモンスターが消えたおかげで快楽に溺れた僕の身体が重力に従って海に向かって落ちていく。 「あっ、っひ!」  どうすることもできなくて、ただ無様に落ちていく身体。  だけど、海中に落ちる前に腕が伸びてきて、僕を支えてくれたんだ。 「大丈夫か?」  そう言った彼の声にはやっぱり聞き覚えがある。  ううん、声だけじゃない。  漆黒の黒い髪も、高い鼻梁も鋭いその目も、全部知っている。

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