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「っひ……いやっ」  僕は咄嗟に大好きな黒江くんが差し出してくれた手を払い除けた。  対する黒江くんはいったい何があったのかわからないっていう顔をしている。  折角助けたのに失礼な奴だって思うに違いない。 「ご、ごめんなさい」  僕はひと言謝ると、呆然とする黒江くんから走って逃げた。  もうすぐ次の授業が始まるのに何しているんだろう。  自分を自分で叱りつけながら、それでも足は勝手に階段を駆け下りていく。  二階の角。  七瀬くんが僕を呼び止めた。 「どうしたんだ? 黒江に何かされたのか?」 「え? あ、ううん」  何かされたというよりは、してもらったっていう方が正しいんだろうな。  好きな人に抱かれたのは嬉しかった。  でもそれは僕を助けるためで……。  何も想われていないのに抱かれたんだ。  そう思うとじんわり涙が溢れてくる。

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