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 ★゜ 「ただいま」  玄関のドアを開けるなり、わざと明るい声を出したものの、家には家族はいない。  家族は父さんと母さんの三人暮らしで、二人とも共働きだ。  だから当然、家には人は誰もいないんだけどーー妖精のジェッタはいる。  まあ、父さんや母さんにはジェッタのことは秘密だけどね。  階段を上って僕の部屋がある二階に行くと、机の上に町内の地図を広げたジェッタがいた。 「ジェッタ? どうしたの?」 「昨日の今日でもまだ反応があるんだ」  真剣な表情で地図とにらめっこをしているジェッタに声を掛けると、ジェッタはうんうん呻った。 「ジェッタは家にいて? 僕だけで行ってくるね」 「だけどお前!」  うん、昨夜の出来事をジェッタは全部知っている。  僕がカニのモンスターにされたことも、黒江くんに抱かれたことも。そしてきっとーー黒江くんが何者であるかも……。  僕が黒江くんを好きなことも……。  全部を知っていて何も言わないのは、全部ジェッタの優しさだ。  ジェッタはポポルくんよりもずっと口は乱暴だけど、でも本当はとても優しい妖精なんだ。  だから、少しでも優しいジェッタの役に立ちたい。  臆病でヘマばっかりする僕を選んでくれたジェッタに協力したいんだ。 「大丈夫、もう同じヘマはしないから」  モンスターが活発化する夕暮れ時になるのを待ってから、魔法少女に変身した僕は急いで昨日の海岸へと向かった。

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