3 / 15

第3話

次の日の放課後から早速、笹尾との勉強会が行われた。 「で? 何が分からないの?」  笹尾に質問されたが、正直全てが分からない。 「分からない事が……分からない?」  そう奏は素直に答えると、ハーっとあからさまに溜息をつかれた。 「そんな溜息つかなくても……」  自分がバカだという自覚はあるが、そう派手に溜息をつかれると自分のバカさが惨めになり、涙が出そうになる。 「あ、いや……じゃあ、まずこれ解いていこうか」  相変わらず表情が読めず、口数も少ない。その沈黙に奏は耐えられそうになかった。 「何か話してよ」 「……話してたら集中できないだろ」  苛ついているような声に聞こえ、奏はビクリと肩を揺らした。 「俺がバカ過ぎて苛ついてる?」  恐る恐る顔を上げ、笹尾の顔を見た。笹尾は少し口をポカンと開け、奏の言葉に呆けているように見えた。 「いや、違う。どう教えたら分かり易く伝わるか考えてた」 「そう、なんだ……」 (怒ってるかと思った)  何とか目の前の問題を理解しようと、問題をじっと見つめたが、一向に答えなど出てはこない。 「これ……」  笹尾のシャーペンを持つ右手が不意に動いた。ゴツゴツとした大きい手にシャーペンを持つ長い指が滑らかに動く。 「ここを、これに代入してみて……」  ポツリポツリと溢れる笹尾の低めの声は心地よく、奏の耳にすんなりと入ってくる。 (モサオのくせに、いい声してる)  何となく気恥ずかしくなり、目の前の数式に集中した。 「で、きた……」  自分でも驚いた。今まで全くできる気もしなかった数学の問題が解け、思わず勢い良く顔を上げ笹尾を見た。  奏の心臓が大きく鳴った。笹尾の瓶底眼鏡の奥の瞳が、一瞬笑っているように見えたのだ。 「やればできるじゃん」  ふわりと大きな手が奏の頭に乗ると、更に心臓の鼓動が速まっていく。 「この式を覚えておくといいよ」  次の瞬間には、笹尾の手の感触がなくなりいつもの無表情な笹尾に戻っていた。 (笹尾って結構、いい奴? )  心臓の鼓動の速さは一向に治らず、笹尾に勘付かれてしまいそうで、顔を上げる事ができない。 「う、うん……」  奏は机にある笹尾の大きな手をじっと見つめた。

ともだちにシェアしよう!