4 / 15

第4話

笹尾との勉強会は、月曜日と木曜日の週に二回、期末テストが始まるまでの一ヶ月間行われる。 「奏さ、モサオに勉強教わってんの?」  同じクラスの酒井に言われ、奏は思わず身を硬くした。 「うん、いとティに言われて……」 「モサオと勉強って、マジウケる」 「でも、あいつ頭いいから」 「キモくねえの?」  林も揶揄うように奏の顔を覗き込む。 「手取り足取り教えてもらったら?」  そう言って、林と酒井は下品な笑い声を上げた。  奏はいたたまれなくなり、その場を去ろうとし踵を返すと目の前に笹尾が立っていた。 「笹尾……」 「あ、モサオくん。こいつ可愛い顔してるからって、手出しちゃダメだぞ」  林が笹尾にいやらしく言うと、笹尾は無言で自分の席に座った。 「ちっ! シカトかよ! モサオのくせに」 (あいつはキモくなんてないのに……結構いい奴だと思うんだけど)  奏は二人の悪態に心底腹が立っていた。だが、何も言えない自分にもっと腹が立った。  予鈴のチャイムが鳴り、奏は自分の席に座りノートの端を少し破ると、『ゴメン』そう一言書いて笹尾に渡した。しばらくすると、背中を突かれ笹尾からも紙切れを渡された。 『気にしてない』  頭がいい割にはその字は思ったより下手で、奏は少し笑った。  放課後になり、奏と笹尾は誰もいない教室で向かい合っていた。 「笹尾、今日ごめんな」  ノートに目線を落としたまま奏は口を開いた。 「何が?」 「酒井と林にあんな事言われてるのに俺、何言えなかった」 「気にしてないって言ったよ」  奏は大きく首を振ると、 「何も言えない自分に凄く腹が立った……」  ノートに意味もなく、奏はグルグルと円を書いた。 「あいつらさ、一年の時同じクラスの奴不登校に追い込んだことがあったんだ。そいつ、ちょっとオタクな感じではあったんだけどさ、別に害がある奴でもないのに、キモいだの汚ねえだの言ってさ、とうとう学校来なくなっちゃって……近くで俺は見てる事しかできなかった……何か言って、今度は自分がターゲットになるのが怖かったんだ」  言葉した事によって自分の格好の悪さを改めて実感し、自己嫌悪に陥る。 「でも、おまえは一緒になって言ったりはしなかったんだろ?」 「うん……だって、良く知りもしない奴の悪口なんて言えないよ」 「おまえは俺の事をちゃんと笹尾って呼んでくれる。おまえがいい奴だって事は分かってるよ」  笹尾の手が奏の頭に触れ、ドキリと大きく心臓が鳴った。  笹尾を知らない時は、表情が分からず絡みにくく怖いとすら思っていた。物覚えの悪い奏に対して、怒ったりイラついたりする事もなく、気長に奏の答えを待ってくれ、説明も分かり易く、奏にでも分かるように丁寧に教えてくれた。確かに口数も少なく愛想も良いとは言えないが、ただ不器用なだけで優しい所がある事を知った。  モサいはずの笹尾が、かっこよく見えてくるから不思議だ。  少しずつ笹尾に惹かれていると、奏は自覚し始めていた。

ともだちにシェアしよう!