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第6話

 奏は笹尾に数学を教えてもらい始めて、笹尾との勉強会がない日も自主的に勉強していた。少し数学が分かり始めたのと、せっかく教えてもらっているのに、笹尾にガッカリされるのが嫌だった。少しでも笹尾に褒めてもらいたいと思った。 「笹尾、先生になれば?」 「何、急に?」  その日も放課後の勉強会が行われ、二人は向かい合っていた。 「笹尾の説明って凄く分かり易い。教え方、上手だなって」 「そう?」 「だって、こんなバカな俺でも理解できるようになったし」 「奏は家でも勉強してるだろ?」  始めて笹尾に名前を呼ばれ、ドキリとした。 (な、名前! 下の名前で呼ばれた……) 「じゃなきゃ、放課後の勉強だけでここまでできないよ」  その事が嬉しいのか、口角が上がっている。普段表情がない分、たまに見せる笑顔の破壊力は凄いと奏は思う。一瞬にして、奏の心臓が大きく鳴り出す。 「う、うん。だって、笹尾にガッカリされたくないし……」  モジモジしながら奏は目線を下に向けた。目の前に笹尾のシャツが目に入ると、第二ボタンが取れかかっているのが目に入った。 「ボタン……取れかかってるよ」  そう言われ、笹尾は自分のシャツに視線を落とした。  奏はスクールバックから何かを取り出し、 「付けてあげるよ」 そう言って小さな裁縫セットを笹尾に見せた。 「女子力高くない?」  クスリと笹尾が笑った。  奏は向かいから隣の席に移動すると、笹尾のシャツを掴んだ。 「じっとしてて」  向き合った体制で、取れかけたボタンに触れた。 (なんだろ……笹尾見てるとなんか違和感? なんか……変な感覚になる)  先程から笹尾を見ていると頭の隅で何か、モヤッとした感覚に陥る。そう思うも、それが何であるかは奏には分からなかった。  思いのほか笹尾との近い距離に奏は緊張し、針を持つ手が少し震えた。それを笹尾にバレないように、手際良くボタンを縫い付ける。 「俺、お裁縫好きなんだ」 「へぇー」 「弟の服作ったり、弟が小さい時はフェルトとかでおもちゃ作ってあげたりしてた。男がお裁縫なんて、それこそ酒井と林のネタにされちゃうから言えないけど」 「器用なんだな」 「できたよ」  すぐそばにある笹尾の顔を見上げると、奏は満足そうに笑みを浮かべた。一瞬、笹尾は呆けたように自分を見つめてきた。 笹尾の顔が近付いてきたと思っうと、そのまま触れるだけのキスをされた。 「!?」  奏は驚きで体が固まり、 「な、何……!?な、なんで!?」  見開いた目を笹尾に向けた。笹尾は口元に手を当て耳が赤くなっているところを見ると、笹尾自身も動揺しているようだった。 「ごめん、なんかしたくなった」  奏の顔は火が点いたように熱い。 「帰ろうか」  笹尾は教室の時計を見ると、奏の返事を待たずに机の上を片付けて始めた。互いに無言で片付けをし、無言のまま教室を出た。  喧騒とする校内は生徒の声は聞こえず、まるで笹尾といるこの空間だけが切り取られてしまったように感じ、校内に笹尾と自分だけが取り残されたような気持ちになる。  昇降口で自分を待っている笹尾の横に並んだ。それは無意識だった。いつもそうやって笹尾は自分を待ってくれる。先程のキスを思い出し笹尾の隣に並んだ途端、当然のように笹尾の隣に並んだ自分が恥ずかしくなってくる。その日、逆方向だというのに笹尾は奏を家まで送ってくれ、別れ際にもう一度キスをされた。

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