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第7話
嫌だとは思わない。むしろ嬉しくて、でも少し恥ずかしいとも思う。
笹尾とのキスを思い出すとお腹の辺りがきゅうっと締め付けられる感覚になる。それと連動するように下半身に熱が集まり始め、その日奏は笹尾とのキスを思い出し自慰をしてしまった。
次の日、奏は笹尾をまともに見る事ができなかった。笹尾を見る度に心臓がバクバクと大きく鳴り、顔が酷く熱くなる。笹尾も昨日の今日で奏とどう接して良いのか戸惑っている様子で、その日一日互いにぎこちない空気が流れていた。
幸い今日は勉強会がない日だ。奏はそれに内心安堵し帰宅すると、テニス教室に行っている弟の秋を迎えに行くべくテニスコートに向かった。
いつもならケイを食い入るように見ているはずなのに、今日はあまりケイの姿が目に入ってはこない。終始笹尾とのキスが頭から離れないのだ。
「うわーーん!」
その時コート内で大きな泣き声が響いた。目を向けると秋が膝を抱えコートに蹲っている。
「秋!」
ベンチから立ち上がり、奏はコート内の秋に駆け寄った。
「大丈夫か⁈」
「兄ちゃーん! 痛いよー!」
秋の華奢な左膝から血が流れている。
「少し足を捻ったかもしれない」
ケイはそっと左足首に触れ、立てるか? そう言って秋をそっと立たせた。ケイはしゃがみ、背中を秋に向けると、秋はその背中に張り付くように体を預けた。
「念の為、病院に連れて行った方がいいな」
テニス教室の責任者である一番年配のコーチが言う。
「家に母親いるんで、家に帰って連れて行ってもらいます」
秋はケイにおんぶをされた状態でコートの外に出た。
「俺が……」
秋を自分の背中に乗せる事を伝えようとすると、
「いや、大丈夫。家まで送るよ」
「でも、歩いて来てるから……あ、母さんに迎えに来て……」
そう言いかけると、
「私、お家まで送ってってあげるわよ」
近くにいた同じテニス教室に通う生徒の母親が声をかけてくれた。
「お願いしてもいいですか?」
ケイがその母親にそう言っているのを奏は、
「いや! いいです!」
そう言って大きく首を振った。
「送って行ってもらいなさい。山崎さんお願いします」
年配のコーチに言われてしまい、奏は口をつぐんだ。
結局その母親に家まで送っていってもらう事になり、自宅にいた母親がすぐに救急の病院に連れて行く事になった。
家に奏だけが取り残され、手持ち無沙汰になった奏は風呂に入る事にし、風呂から出て時計を見ると既にレッスンが終了している時間だった。
不意に玄関のインターフォンが鳴った。秋と母親が帰って来たのかとも思い、インターフォンの画面を覗くとそこには帽子を目深に被ったケイの姿が映っていた。
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