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第8話
(ケイコーチ……! )
奏は慌てて玄関を開けた。
「こんばんは」
ケイは表情を変える事なくそう言った。
「こ、こんばんは……」
驚きで奏は固まっていると、
「秋は?」
ケイにそう言われ、ハッと我に返った。
「あ、まだ病院……なんか、混んでるみたいで」
どうやら秋を心配して様子を見に来たようだった。
「そっか……」
「よ、良かったら中で……」
その言葉にケイの肩が僅かに揺れた気がした。
「いいの?」
ケイの切れ長の目がこちらに向けられ、奏は大きく頷いた。
リビングに通すと奏は麦茶をケイの前に置いた。奏はケイの横に腰を下ろし、入れた麦茶に口を付けた。
「髪……濡れてる」
不意にケイが言葉を発して、ケイを見ると相変わらず射抜くような目で自分を見ている。奏はその視線に落ち着く事ができず、ケイと目を合わす事ができない。
「さっき、お風呂入ったから……」
奏は気付いた事があった。
(ケイコーチの声と笹尾の声、似てるんだ)
そう思うと、雰囲気まで似ているように思えてくる。ケイもあまり口数が多くないのは、レッスンを見ていて感じていた。だが、子供たちに優しく小さい笑みを浮かべ、言葉数が少ないながらも一生懸命コミュニケーションを図ろうとしている姿は、自分に勉強を教える笹尾と重なった。
その時テーブルに置いた奏の携帯が鳴った。見れば母親からで、凄く混んでてまだまだ帰れそうにない、夕飯は適当に食べて、というメッセージだった。
「まだ帰れそうにないみたい」
そうケイに告げると、そっか……と小さく口の中で呟いたのが分かった。
シンと静まり返り、奏にはその空気に耐えられそうなかった。何か話さないと、そう思っても言葉が浮かんでこない。
「あのさ……」
不意にケイが口を開いた。
「ひゃ、ひゃい!」
憧れのケイと二人きりという状況に奏は緊張から妙な声をあげてしまった。
「好きなんだけど」
ケイの表情に変化はないが、膝の上で組まれた両手が落ち着かない様子でしきりに動いている。
「……何が?」
「好きなんだ、おまえが」
ケイの唐突なその発言に奏の頭が追い付かない。
「ええーー!!? 嘘だ!」
「嘘じゃない」
相変わらずケイの表情は崩れない。
「好きだ」
ケイの左腕が伸び、奏の右肩を掴んだと思うと半ば強引に体を引き寄せられた。
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