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第8話

山で倒れた僕は、そんな戻る事のない日の夢を見ていた。 そこに猟師が通りがかり、行くあてのない僕を助けてくれた。 僕は山で暮らす人たちに助けられながら子供たちに文字を教えるという仕事をし、そこから山に学校が出来た時に教員として雇ってもらえた。 山で暮らしているうちに戦は終わり、国も僕が説いてきたものとは違うけれど、幾度かの新たな戦いを経てようやくひとつになった。 それまで、僕がいたような義勇軍は逆賊としてその活動を認められるような事は一切なかったけれど、時代の流れと共にその存在は認められ、他の義勇軍の生き残りの人たちがその歴史を証言したり本に著したりするようになっていった。 僕の主君もその親族達が汚名を着せられたままではなく、激動の時代を懸命に生きた人物としてその名誉回復の為に動き出した事で最期の地に石碑が建てられる事になった。 あれから。 加寿也君と別れてから40年の時が過ぎていた。 僕も加寿也君に生かされた身だけど体験した事を伝えたい。 加寿也君が生きた証を形にしたい。 生まれ変わってまためぐり逢うその時の為に。 そんな思いに駆られて、僕は『戦争で生き残った一軍人の親族』として体験した事を書いて新聞社に投稿した。 所属していた軍は僕しか生き残りがいなかった様で、僕の書いた話は多くの人の目に留まり、書籍となり、僕は作家になる事が出来た。 教員となって転勤を繰り返してはいたけれど、死ねない身体になった僕は歳を取る事もなく、いつまでも29歳の姿のままでいる事で人の目が気になり、人と極力会わない方がいいと考えていた頃だった。 僕は今まで貯めていたお金で僕と加寿也君が初めて唇を逢わせた、桜の見える場所に家を建てた。 この桜が咲く頃、加寿也君にまた会えるんじゃないかと勝手に信じていたからだった。

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