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第9話

数年後。 僕の作品が賞を頂ける事になり、既に人とほとんど会わなくなっていた僕は固辞したかったけれど出版社から会社に箔が付くからと言われ、受賞式にも参加する事になった。 あの時からずっと変えていなかった総髪。 名前は変えていたけれど、この姿のままで世に出てしまえば僕を知る人たちが僕の事を訝しむかもしれない。 「…………」 鏡に自分を、加寿也君が褒めてくれたその黒髪を映す。 『あんたの髪に触れてる時、心が満たされる……』 そう言ってくれたあの日の事を、僕は思い出してしまっていた。

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