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第10話
もうすぐ、最期の戦いの日が来る。
戦いに出る事が増えていく中、そんな噂が軍内で囁かれるようになっていった。
戦況は五分五分、という話を聞いていたが、僕は物資や設備を鑑みるとこちらが不利で、このままでは敗北するのではないかと感じていた。
「今日は月が綺麗ですね」
僕は主君から与えられた部屋の縁側で、加寿也君と月を見ながらお酒を飲んでいた。
月の上に雲が重なって、それでも仄かに光り輝いている月。
僕はそんな月が大好きだった。
「あんたははっきり見えるよりあんな風に見える月を綺麗と言うんだな」
加寿也君は僕の肩を抱き、その大きな手で髪を撫でながら話す。
「曇りなき明瞭なものも美しく感じますが、ああして少し見えなくなっても輝けるものの方が僕は美しいと思うんですよ」
僕は加寿也君に笑顔を返した。
「俺はこの目にはっきり見えるものがいい……」
加寿也君はそう言って、僕に接吻してくれる。
「あんたの髪に触れてる時、心が満たされる。俺の目にはっきり見えるあんたはあの月よりもずっと綺麗だ」
もう一度。
僕の身体をきつく抱き締めながら。
今度は僕を蕩けさせるような口付けだった。
「加寿也君……」
「汐見殿、俺は、あんたを抱きたい。この命がいつ尽きるか分からない、だからその前にあんたと結ばれたいんだ」
加寿也君の手が僕の髪から着物に移り、帯へと降りていく。
互いの想いを知って、可能な限り一緒に時を過ごして半年。
その度に唇を重ねてきたけれど、それ以上の事……身体の関係を持つ事はなかった。
「そんな……そんな風に想って頂けるなんて……嬉しいです……」
いつかそうなれたらいいな、とは思っていたけれど、恥ずかしくて口に出せずにいた。
加寿也君もそう思ってくれたなんて。
嬉しくて、嬉しくて涙が出た。
「おい、何で泣くんだよ」
「御免なさい、嬉しい気持ちが溢れてしまって……」
ぽろぽろと零れる涙を、加寿也君の優しい手が拭ってくれる。
「泣かれたらやりにくいだろ。それに俺は、あんたの笑った顔の方が好きだ」
照れながら話す加寿也君。
可愛らしくて、愛おしさが募った。
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