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第12話

最早、今の時代にこの髪は合わなくなっていた。 けれど、加寿也君に褒めてもらったこの髪を失う事を決めるのに、僕は少し躊躇ってしまっていた。 あの日と同じ、月あかりが綺麗な夜。 僕は泣く泣く髪を切った。 必ずまた逢える。 髪はその時にまた伸ばせばいい。 そう言い聞かせて、泣きながら髪を切った。 黒縁の眼鏡を買い、かつての姿とは全くの別人の姿になると、僕は受賞式に臨んだ。 その後、僕は今まで避けてきた、主君や加寿也君の最期の場所を訪れていた。 立派に建てられた主君を偲ぶ石碑に対し、加寿也君が最期を迎えた場所はあの時あった木だけがそのままで、周りは様変わりし、公園になっていた。 「加寿也君……」 名も無き軍人のひとりでしかなかった加寿也君の為の石碑があるなんて思っていなかったけれど、悲しかった。 加寿也君のきょうだいの血が絶える事なく続いている事を知り、取材と言って一度、加寿也君も働いていた酒屋にも足を運んだけれど、そこにも加寿也君の存在があったと示すものは何もなかった。 僕の記憶だけが。 僕のこの脚に埋められた加寿也君の皮膚だけが、加寿也君が生きていた事を示すものだった。 探すあてもなく、けれど逢いたくて、僕なりに探し続けているけれど、未だに加寿也君には逢えていない。 『じゃあ……またな……』 笑って死んでいったあの笑顔と声が今も目と耳に焼きついて離れない。 「何処にいるの?加寿也君……」 僕はあの木に顔を寄せて泣いた。

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