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第15話

その日の夜。 僕はお酒を飲みながら、加寿也君に最期に抱かれた日の事を思い出していた。 「降伏……ですか?」 あの日。 僕は軍議の前夜、主君……大森五郎左(おおもりごろうざ)様に呼び出されていた。 「これ以上無益な血を流す訳にはいかんからな。先生もこの戦いをそう感じているだろう?」 「それは……しかし、僕を含めて貴殿の御心に触れた者たちは皆、それを受け入れるとは思えません。貴殿も共に降伏されるのならば話は別ですが」 「儂はこのまま討死すると決めている。先生、儂の命を以て皆を救って欲しい」 いつも皆を思う優しさ。 こんな御方だったから、多くの人たちが軍人として志願し、この御方の下に集まった。 僕も、僕なんかの研究に熱心に耳を傾け、召し抱えてくれたこの御方の為の義に最期まで応えたいと思っていた。 「……出来ません、僕は最期まで貴殿と共に戦います」 加寿也君とずっと一緒にいたいという気持ちがない訳ではなかったけれど、自分だけが助かる訳にはいかない。 「済まないな、汐見先生……」 「い……いえ……」 僕が言うと、主君は僕の身体を抱きしめてくる。 40を過ぎておられる年齢的な事もあるのかもしれないけれど、加寿也君よりは細い、けれど僕よりは男らしい身体。 僕はいきなりの事に、どうしていいのか分からなくなった。 「先生を召し抱えたのはその知識だけでない。儂は先生のその美しさに惹かれたのだ。前々から傍に置きたいと思っていた……」 血管が数多く浮いた手が僕の胸元に滑り込む。 「ぁ……っ……」 少し乾いたその手に触れられ、快楽を覚えたばかりの僕の身体は反応してしまっていた。 「五郎左……さま……っ……」 「そんな目で儂を見ないでくれないか、汐見先生……」 見た事のない、悲しそうな表情を浮かべている主君。 それに対し、僕はどんな顔をしているんだろう。 信じられない、という感情が伝わるものだったんだろうか。 「うぅ……っ……」 帯を解かれ、僕は目を閉じた。 主君の事も、そして愛する人以外の前で素肌を曝け出す自分も、見たくなかった。 何故、僕だったのだろう。 主君の呼吸とその肌の温もりを感じながら、僕はこの悪夢が早く終わる事を願った。

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