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第16話

加寿也君と過ごした甘美な時間とは違うのに、僕の身体は主君を受け入れて、快感さえ感じてしまっていた。 このまま死んでしまいたい。 僕は溢れる涙を堪えられなかった。 部屋に着き、戸を閉め切ると、僕は声を殺して泣いた。 「汐見殿……?」 しばらく泣いていると、加寿也君が部屋に入ってくる。 「……ひとりにして下さい」 「そんな顔を見せられてひとりになんてさせられるかよ」 畳に顔を伏せて泣いていた僕を、加寿也君は抱き締めてくれた。 「僕は……僕はもう加寿也君に触れてもらう価値などありません。あの御方の為に死ぬだけです……」 「あんた、何ワケの分かんねぇコト言ってんだ?」 涙を拭ってくれる大きなあたたかい手。 その手が僕の頬に触れ、顎に降りていく。 親指が唇に触れると、加寿也君は唇を逢わせてきた。 「ふぅ……んん……っ……」 口内を蠢く舌が心地良い。 僕も夢中で加寿也君に応えていた。 「……なぁ、死ぬだけって、もうすぐ戦いに行かなきゃいけなくなるのか……?」 「……明日、軍議があるようですので、戦いはその翌日以降すぐでしょう……」 「そうか……」 加寿也君の、僕を抱き締める腕に力がこもる。 「こうしていられるのも、最期って事か」 「……きっとそうだと思います……」 それなのに、僕は。 愛する人以外の人に抱かれた。 しかも、快感さえ感じていたんだ。 それを思うと、自分が許せなくてまた涙が溢れた。 「なら、最期にあんたを抱きたい」 「加寿也君……でも……僕は……」 「あんたは目の前の俺の事だけ見てりゃいい……」 僕の言葉を遮るように、加寿也君が口付けてくる。 「愛してる。こんな気持ちにさせてくれたのはあんただけだ」 どこまでも澄んだ瞳。 加寿也君に主君と会う約束がある事をお知らせしていたから、僕の様子から何が起こったのか分かったのかもしれない。 それでも、こんな風に言ってくれるなんて。 「僕もです、加寿也君。愛しています……」 泣きながら、僕は加寿也君の頬に触れながら、自分から接吻していた。 「はぁ……っ……」 その広い背中に伸ばしていた腕に力を込め、加寿也君の舌に自分の舌を絡める。 時折聞こえる水音がいやらしい感じがして、身体がどんどん熱くなっていった。 「いつもは清らかそのものな先生、なのにな。その淫らな顔、すげぇ唆られる……」 「あ……っあ……そんな風に言わないで……あぁっ……!」 加寿也君は僕の着物の襟を強引に開くと、露出させた胸に触れ、刺激を待ち侘びている突起に舌を這わせた。 指先できゅっ、と摘まれると、僕は堪らず声を上げた。 「そうやって恥ずかしがって啼く声も堪んねぇ……」 「んん……っ、んぁ……っ……」 加寿也君に触れられるところ全てが僕に快感を与え、その声が僕を淫らにしていく。 唇が僕の雄に触れると、僕は全身が震え上がるような感覚に陥った。 じゅるじゅると音を立てて吸われて、すぐに加寿也君の口の中で果ててしまう。 「は……あぁっ……」 最後の一滴まで搾り取られるようにされると、その快感で頭がくらくらした。 「綺麗だ、すごく……」 加寿也君が着物を脱ぎ、その身体を重ねてきてくれる。 「かずなり……くん……」 その熱く堅くなっている雄が早く欲しくて、僕は強請っていた。 「早く……はやく挿れて下さい。加寿也君とひとつになりたいです……」 「……っ、そんな煽り方するなんて、どうなっても知らねぇからな……」 三度目の行為。 今までは加寿也君の指で慣らしてもらってからの挿入だったけれど、最期はそれなしで加寿也君と繋がった。 主君に抱かれた後だったからだろう、僕は差程の痛みは感じたものの、加寿也君の雄をすんなりと受け入れられていた。 「あぁっ……幸せ、しあわせです、加寿也君……」 僕の中で熱く脈打ち、更に大きくなっていく加寿也君を感じる。 嬉しくて、けれど、涙が溢れた。 「俺も……幸せだ……晃一郎……」 加寿也君も涙を浮かべながら、僕の名前を初めて呼んでくれた。 「愛してる……」 僕たちは手を繋ぎ、唇を重ね合わせながら快楽にその身を委ね、朝が来るまで求めあった。 それが、ふたりで過ごした最期の夜だった。

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