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第9話

創士様を交えて、晩ご飯に茶碗蒸しを食べた翌日。 僕は創士様と屋敷に戻った。 僕を拾ってくれた老夫婦は涙を浮かべ、笑顔で僕たちを見送ってくれた。 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎ 久しぶりに帰った屋敷は、あの日から変わりなくそこにあった。 出ていった日と変わらず、2人で晩ご飯を食べた。 「柊、風呂から上がったら俺の部屋においで。今日は一緒に寝よう」 「はい、創士様」 風呂から上がると、自分の部屋に寄らず、急いで創士様の寝室に向かった。 コンコンとノックし返事を待ってから中に入ると、あの日と同じように創士様はディスクチェアに座っていた。 「柊、まだ髪が濡れているじゃないか。ほら乾かさないと風邪をひくぞ」 創士様は僕の手を引きディスクチェアに座らせると、ドライヤーで髪を乾かしてくれた。 その長い指がくすぐったくて、僕は終始肩を竦めてしまった。 「柊、見てほしいものがある」 「はい」 ベッドに並んで座った創士様は、ガウンを脱いで、パジャマのボタンをゆっくり外した。 その手は微かに震えていたが、そのまま見守った。 そして前を開かれた時、僕は目を見開き息をのんだ。 そこには刃物できたと思われる無数の傷痕があった。 その中央には一際大きい傷が肩から脇腹にかけて深く残っていた。 「後ろにもある。見るかい?」 「……はい」 僕が頷くと、創士様はパジャマを脱いで背中を見せてくれた。 そこにも、小さいものから大きな傷痕がたくさん残っていた。 「この傷、母親が付けたんだ。母親といっても父の後妻だが。幼い頃の俺は産みの母親によく似ていたらしい。どうやらそれが気に入らなかった継母が、俺の部屋を訪れる度に刃物で傷付けた」 「そ、そんな……」 「最初はカッターナイフだったが、そのうち果物ナイフに変わって、終いには出刃包丁を持ち出してきたよ。それが、この胸の傷だ。気持ち悪いだろう?」 泣きそうな顔で笑う創士様に、僕はフルフルと頭を振った。 「触ってもいいですか?」 「ああ」 傷の一つ一つに触れる。 小さな傷は浅く線が残る程度で、深いところは窪んでいた。 一際深い傷をなぞると創士様はブルリと震えた。 「痛いですか?」 「いや、もう痛くない。少しくすぐったいがな」 「この傷があるから、僕を抱いた時、脱がなかったのですか?」 「まあな。過去にこの傷を見た女はみな怯えたから、柊ももしかしたら…と思ったら脱げなかった」 また泣きそうな顔で笑う創士様に、僕胸は苦しくなる。 傷痕に視線を戻し、その一つにキスをするとピクリと体が動いた。 その反応を見ながら身体の傷にキスを落とす。 「柊、何を……?」 「この傷の数だけ、受けた痛みと深さが、僕を救い出してくれた優しい創士様を作り出したものです。気持ち悪くなんかないです。寧ろ……愛しいのです」 「っ……」 僕の肩を掴んで問うた創士様にそう告げ、胸の一番深い傷に吸い付いた。 綺麗に痕は付かなかったけど、赤くなった。 それが嬉しくて頬が緩んだ。 「くっ……優しくしたかったが無理だ。柊、俺はお前を滅茶苦茶に抱く」 「……はい。僕を滅茶苦茶に抱いてください。創士さーー」 僕の言葉は創士様の口の中に吸い込まれた。 そして、言葉通り、空が白むまで僕は眠ることを許されず、創士様の熱情を受け入れ続けた。 「柊、二十歳の誕生日、おめでとう」 疲れ果てて眠ってしまった僕は、その言葉をちゃんと聞くことはできなかった。

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