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第5話
残念なことに、面倒ごとになるっていう予想は割とすぐに当たる。
夕方には歓迎しない来訪者がやってきた。
エントランスの呼び出し音が鳴りはじめて、それを教えてくれる。
唐突になるのは当然だから、驚かされるのは仕方ないとして、堪え性のない連打はどうかと思う。
気分悪くなるなあと、いやいやながらソファを立った。
『くっそじじい! どういうことだこれは!!』
インターフォンの受話器を取り上げた瞬間に聞こえたのは、若いころの君の声によく似た罵声。
受話器を耳に当てることもなく、振り返って理人の顔を見た。
「くそ爺? ご指名だが?」
ソファを立ってきた理人がオレの腕の中に入れるように手をのばして、エントランスの扉を操作する。
「常識のないくそ孫だが、一番マシな男だ」
「そう」
「入れてやる。入ってこい、アホ孫」
受話器を戻したその手で、理人はオレを抱きしめる。
覚悟をしていても、記憶が消えるわけじゃない。
オレたちの中ではまだ、オレが入院までした刃傷沙汰は、生々しく残っている。
「大丈夫……」
オレの前に回された手を、ただ撫でた。
アホ孫だとか一番マシだとかいう言い方はしているけれど、じきに部屋になってくるのは理人が孫たちの中で一番気にかけているヤツだ。
内容証明郵便が届いて、即刻飛んできたんだろうことが、時間から推察できる。
そういう身内が理人にいることが、実は、オレは少しうれしい。
話をして後に離れることになっても、理人がちゃんとそういう人間関係を積み上げてきたのが、とても嬉しいんだ。
そう告げて体をねじり、理人の耳にキスを落とすと、小さな笑い声が上がった。
『そういうお前はどうなんだ』なんて藪蛇な質問が出る前に、部屋のインターフォンが鳴る。
「茶でいいか?」
「水でいいくらいだ」
「そういうなよ、粗茶くらい出してやるさ」
理人の腕の中から抜け出して、オレはキッチンへ向かう。
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