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第23話

 料理を作り終え、さてテーブルに並べようかと思って振り向くと、男の子が立っていてビックリしてしまった。  やたら気配の無い子である。 「ごめんね。お腹すいたよね。今、テーブルに並べるから……」  白亜は盛り付けをしつつ、男の子に笑いかける。  男の子はソッと、白亜に紙を差し出していた。  お絵描きしたものを見せてくれるのだろうか。 「どれどれ〜」  折角だから見てやろうとしゃがんでと紙を受け取る白亜。  よく見ると絵では無く、文字が書かれてある。  すごく達筆な文字は文章になっていた。 『僕は朽葉(くちば)、耳が聞こえないので筆談させてください。助けて頂いて有難うございました。白亜様』  そうか書かれている。  彼は、耳が聞こえず話せなかったのだ。  白亜は朽葉の頭を撫でる。 『これから食事にしよう』  そうメモ帳に書いて見せると、朽葉は頷く。  ソファで座って待つように促し、白亜は料理をテーブルに並べるのだった。  テーブルにつくと、朽葉は白亜から受け取ったメモ帳にメッセージを書く。 『読唇術は会得しているので、白亜様は普通に喋って下さい。このメモ帳は僕が貰っても良いですか?』  まだ小さいのに読唇術を会得しているとは、関心してしまう。  白亜は頷くと、取り敢えず食事を勧めた。  会話はまた後にして、取り敢えず食事をさせた方が良いと思ったのだ。  初めて手料理を人に振る舞うので、美味しく食べて貰えるか、白亜はドキドキしてしまう。  自分の舌がおかしくて、もしかしたら酷い不味さだったらどうしようかと、朽葉の様子を伺ってしまう。  朽葉はニュウジュアジアのニュルニュルを口に運び、ニコリと笑顔を見せてくれた。  ただのワカメスープたが、美味しかった様で、白亜はホッと胸を撫で下ろす。  そして自分も食事に手を付けるのだった。  気づかなかったが、自分も腹が空いていたみたいだ。  沢山食べてしまったが、朽葉も沢山食べてくれたので白亜は嬉しかった。  自分が作った料理を誰が美味しそうに食べてくれるのってこんなに嬉しいんだ。  僕もコック長にもっと美味しそうな顔を見せてあげるんだったな。   忙しくて料理をちゃんと味わって食べた事なんて無かったかもしれない。  食事はただ腹を満たすだけの作業だと思っていた気がする。  コック長にには申し訳ない事をしていたなと、白亜は少し反省するのだった。

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