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第1章⑪

「吉沢刑事は小脇を殺した犯人について、斧を使って、最後に鎌のようなもので背中から刺したと言っていたが……」  そもそも斧で人間の腕を――それも生きている人間の腕を切り落とすには、相当の力と技量がいる。それでも、力のある男なら不可能ではないだろう。  とはいえ、クリアウォーターは先刻、自分の目で確認したことがどうにも気になっていた。    小脇の両腕と足の切断面が、いずれも異様にきれいだったのだ。  特に気になったのは骨である。斧のように重量を利用して切る道具を人体に使った場合、加わった力で骨に亀裂が入ったり、粉砕されることが多い。ところが小脇の遺体には、その痕跡が一切なかった。  殺害に使用された凶器は斧ではないかもしれない――クリアウォーターがそう言うと、アイダが手を挙げ、「おれも同意見です」と言った。 「それから、もうひとつ。吉沢という刑事が想定していた、途中で凶器を持ちかえるっていうのが、どうにも気に入らない。最初に斧を使っていたというのなら、とどめもそれで刺せばいい。何かアクシデントがあって、使えなくなったというなら別だが……」  アイダはそこで、自分の右足に目をやった。指が二本欠け、そこから赤黒くえぐれた傷が太ももの方に伸びている。普段、靴とズボンで隠されている戦傷。これが原因でアイダは戦場の最前線からリタイアすることになった。  そして、クリアウォーターとも知り合うことになったのだ。 「――少佐。実は小脇とよく似た死体を、俺は過去に見たことがあるんです」  アイダの言葉にカトウは驚く。クリアウォーターの方を見ると、こちらも虚をつかれた表情を浮かべていた。 「――話してくれ」  上官の言葉にアイダはうなずいた。

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