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第2章④
最初に駆け寄って行ったのは、飛行服に身を包んだ搭乗員の一団だった。不時着した飛燕の操縦者は、彼らの隊の者らしい。その後ろにつなぎ姿の整備兵たちが続く。
周囲の者が見守る中、着陸した飛燕の操縦席から手袋をつけた腕が突き出た。続けて、操縦者本人が姿を現す。風防ガラスの枠をつかんで傾いた翼の上に足をのせた際、一瞬、よろめいて転がり落ちそうになったが、寸前で持ちこたえる。そのまま滑るように地上に降り立つと、つけていたゴーグルを引きちぎるように頭の上に押し上げた。
下から現れた素顔に、金本は虚をつかれた。
――え…女?
小ぶりな卵型の輪郭をした顔は、日本人離れした彫りの深さをしていた。驚くほど大きな瞳。筆で描いたようなくっきりした眉。すました鼻梁。ふっくらとした薄紅色の唇。頭を覆う武骨な飛行帽は、逆に顔の造形の妙を際立たせている。
それはどう見ても女の顔――しかもかなりの美人といってよかった。
その美しい顔の半面が今、血で染まっていた。着陸時の衝撃で、どこかを切ったらしい。
しかも降下と上昇を何度も繰り返したせいで目の毛細血管が破れたようで、両目とも真っ赤に充血している。
その血色の瞳に、遠目でも分かるくらい激しい怒りが燃えていた。
金本は目が離せなくなった。
これほど美しく、同時に恐ろしい顔は見たことがなかった。
そして――。
「――今日、俺の機体を整備した奴!! 出てこい!!!」
ふっくらした唇から響き渡った大音声は、間違いなく男のものだった。
「ふざけた仕事をしやがって!! なます斬りにしてやる!」
叫びながら男は文字通り血眼を、整備兵たちの方へ向けた。目指す相手はすぐに見つかったらしい。そちらへ向かって、血をしたたらせながら猛然とした足取りで突進した。
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