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第2章⑫

「これで三戦三敗だな、今村」  訓練終了後、ピストで開かれた反省会の場で黒木は言った。美しい顔に意地の悪い笑みが浮かんでいる。 「後ろから食おうと近づいて行ったやつが、またぞろ食われる側になっていた。前回と前々回と同じだ――どうして、そうなった?」  隊員たちは黒木の方を見ながら、今村にそっと注意を向けた。「はなどり隊」の副隊長は返す言葉もなく、くやしそうに押し黙っていた。 ――どうして? そんなのこっちが聞きたい。  今村は強張った顔のまま、少し離れたところに座る年長の曹長に心の中で恨み言を吐いた。 ――金本め。少しは手加減してくれればいいものを…。  今村が答えられずにいると、黒木は金本をうながして説明させた。 「別に大したことはしていません」  金本の言い方がまた(かん)(さわ)った。まるで太陽が丸いのは当然だとでも言うような口調で、自分の動きを説明するのだ。 「今村少尉どのを引きつけた後、スロットルを全開にして、操縦桿を少し引いただけです。こうすると、減速と空戦フラップの作用で瞬間的に上昇するんです」  聞いていた今村は、そんなことも分からないなんて阿保じゃないか、と言われているような気になり、余計に腹立たしくなった。同じことでも、隊長の黒木に言われるのなら、もう少し素直にその言葉に耳を傾けられただろう。意地悪な嫌味や、時に罵られ、ぶたれることにやはり腹は立っただろうが、黒木は少なくともこの隊の隊長で、年齢も階級も上だ。  それに妙な話だが――あれだけけた外れに顔がいいと、それだけで何割か怒りもそがれる。  確かに金本は今村よりずっと経験を積んでいる。だが今村は早い段階で、この年長の曹長に反感を抱いていた。他人を拒絶するような無愛想な言動が主な原因だったが、他にも理由があった。 ――確証はないが、あいつはきっと……。  今村が金本の技量に対し、素直に敬意を持てない理由はそこにあった。そして、その気持ちは金本を相手に接敵訓練をやらされ、同じようにあっという間に負かされた他の隊員にも多かれ少なかれ、共通するものだった。  反省会が終わり解散となった後も、今村はふてくされた顔でしばらくピストに残っていた。

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