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第3章③

 クリアウォーターは手元のメモに目を落とす。事件後、幾度となく読み返したフレーズが、そこに記されていた。 ――此身死了死了――  小脇殺害の現場に残されていた六文字の漢字。  被害者の手足を切り落とすという残忍な手口と共に、この事件の異常性を際立たせているもうひとつのピース。犯人からのメッセージだ。  メッセージ――すなわち伝言。  ならば、その言葉を伝えたい相手がいるはずだ。  その相手は殺害された小脇か。それとも彼の死体を見つけるであろう妻や村人か。あるいは捜査に当たる警察か。はたまたーーそれ以外の第三者か。  メッセージを眺めるクリアウォーターの緑の目が、鋭く輝いた。 「――正直なところ、この事件は謎だらけだ。犯人は被害者に必要以上の苦痛を与えて殺している。そこからは、小脇への強い恨みがうかがえる。だが、その犯行は衝動的には見えない。凶器を用意して、他人の邪魔が入らない場所と時間を選んだことからは、計画性がうかがえる。これが外部から来た人間の仕業だとしたら、なおさらだ」  犯人は常軌を逸しているかもしれないが、決して愚かではない。クリアウォーターはそう感じていた。ところが、さらに思考を進めようとした時、不意にサンダースの視線に気づいた。  銀縁眼鏡の奥にあるダークブラウンの目は、あまり暖かいとは言えなかった。 「あなたがこの事件に少なからぬ興味を抱いているのはよく分かりましたが……」  サンダースの口からため息がもれる。眼鏡をくいっと上げ、彼は言った。 「仕事の優先順位を見誤らないでください! 旧日本軍の軍人が殺害された事件は確かに興味をそそられるかもしれません。ですが現在、あなたもU機関も複数の案件を抱えているんです! そのことをお忘れなく」 「………」 正論の真ん中をいく発言だったので、クリアウォーターには返す言葉もなかった。広い肩をすくめ、赤毛の少佐は「降参」のポーズをつくる。  サンダースが持ってきたファイルを手に取る。それに目を落とす寸前、クリアウォーターはさりげなく言った。 「それで、スティーヴ。私に言うべき用件は、ほかにないか?」  サンダースの表情に小さなひび割れが走るのを、クリアウォーターは見逃さなかった。 「ここ数日、何となく君の態度がいつもと少し違う気がするんだ。私に何か、伝えたいことがあるんじゃないかい?」

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