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第7章⑳

 翌朝。東京麻布の本宅で朝を迎えた高島中将は、朝食後にタバコで一服いれる暇もなく、いくつもの報せを受け取った。  最初のものは熊谷飛行学校からで、東京憲兵隊の人間が金本勇―ー金蘭洙に関する資料の閲覧と教官への聞き込みを希望しているとのことだった。高島の頭の中に、昨日の憲兵隊長とのやり取りが蘇る。怒りも再燃してきたが、口から出てきたのは「できるだけ協力するように」との言葉だった。ここで下手に意固地になっても、いいことは何もなかった。 「そうだ。上原中尉が私と一緒に、こちらに来ている。彼は金本の所属する教育班の班長だ。憲兵の聞き取りの相手としては、一番うってつけだろう。憲兵隊に連絡を入れて、直接、向かわせよう」  電話を切った高島は書斎で着替え始めた。もう一度、間馬に面会を申し込むつもりだった。  今回の憲兵隊のやり口は、最初から気に入らなかった。大逆未遂事件の捜査という名分は、高島も十二分に理解できる。しかし通すべき筋を、彼らはいくつも無視した。何より、学生を拘留したまま、解放する気配がない。金蘭洙が、実行犯の弟だとしても――いや、実行犯の弟だからこそ、急いで憲兵の元から身柄を取り返さないと、文字通り命に関わる。  手塩にかけて育てた操縦生徒を――何より未来がある若者をむざむざ獄死させることは、高島の矜持が許さなかった。  着替え終わったと同時に、住み込みの女中がおずおずと高島の元へやって来た。 「航空本部からお電話でございます」  高島は眉根を寄せた。  女中に上原中尉が来たら玄関で待ってもらうように伝え、急いで電話に出る。 「――もしもし」 「やあ、高島中将。早朝からすまない」  電話口から聞こえてきた声に、高島はさらに渋い表情になった。  「かみそり」の異名を取る、航空本部長からだった。 「…東條閣下」  高島は慇懃に応じた。それに対し、航空本部長ーー東條(とうじょう)英機(ひでき)中将は言った。 「多忙のところ悪いが、例の君のところの学生の件で話がある。車を回すから至急、航空本部に来てもらいたい」

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