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第7章㉙
高島実巳中将は三日連続で東京憲兵隊の元に赴き、間馬大佐に三度目の面会を申し出た。しかし応対に出たのは間馬ではなく、憲兵隊長代理だという某中佐だった。
「間馬大佐はどうした?」
高島が不審もあらわに尋ねると、中佐は仏頂面で答えた。
「昨日、ゆえあって都内の病院に入院されました」
「入院!?」
中佐の返答に、高島はさすがに驚いた。
「昨日会った時はピンピンしていたぞ。一体、何があった?」
「申し訳ありませんが軍機に触れるため、お答えできません」
「入院先は?」
「お答えできかねます。どうか、お引き取りを」
最初、高島は自分があまりにしつこく来るものだから、嫌気のさした間馬が雲隠れを決め込んだのかとさえ思った。だが、上原中尉を使って調べさせると、中佐の言ったことは本当であると判明した。何のことはない。高島の名を出して、軍関係の病院に手当たり次第に電話をかけ、昨日、運ばれてきた患者について問い合わせたのだ。憲兵隊の緘口令 は病院までは届いていなかったらしく、間馬の入院先はすぐに判明した。
「いやあ、一体全体どういう経緯でそうなったのか、話してくれないので分かりませんがね。暴発した拳銃の弾が、尻に当たったんですよ。……え、重症かって? あはは。弾は尻の表層を貫通しただけなので命に別状はないですし、二三日で退院できますよ」
問われた担当の軍医は笑いながら答えた。確かに間馬大佐が何でまた、そのような滑稽な不運に見舞われたのか、高島にも皆目見当がつかなかった。
そうやって、数時間を無為に過ごしたあと、高島は夕方、あらかじめ手配していた車である場所へ出発した。そこは高島が懇意にしている、一軒の料亭であった。
高島はこの三日間、東京憲兵隊だけを相手取っていたわけではなかった。自分の持つあらゆる人脈を使って、憲兵司令官である津川大 中将との面会にこぎつけたのである。
通された部屋で、高島は気を落ち着かせ待ち人の到着を待った。そして午後五時。約束のその時間に、津川中将はやって来た。だが、彼はひとりではなかった。
津川の背後から現れた人物を見た高島は、思わず目を瞠った。
「――事前に連絡を入れられなくて、すまんな。高島中将」
そこにいたのは航空本部長――東條英機中将だった。
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