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第8章⑦

 ニイガタとササキが、リストアップした関係者の居所を探し出す。それをもとに、クリアウォーター、サンダース、アイダ、カトウは手分けして、関係者に対する尋問を重ねていき、そこで得られた情報は一両日中に報告書にまとめられ、U機関に持ち帰られた。  こうして七月最後の週の半ばには、生前の小脇順右と河内作治に関して、それまで知りえなかった情報が続々と集まってきた。 「――暑い中、あちこち飛び回って大変だね。おつかれさま」  瀬川倉吉への尋問を終え、荻窪に戻ってきた翌々日。数日ぶりに自分の席に落ち着いたカトウのところへ、フェルミが顔を見せにやって来た。  その時、翻訳業務室の中にはカトウとササキがいるだけだった。ニイガタとアイダは三階のクリアウォーターの執務室で、サンダースと共に進捗状況の報告を兼ねた会議の最中だった。  カトウはちょうどササキを手伝い、警視庁からクリアウォーターのところへ届けられた資料の整理に当たっていた。それは小脇順右の遺族から引き渡されたもので、戦中に小脇が行った講演のパンフレットや草稿の類を一括して箱詰めしたものだった。吉沢刑事はこれをあまり重要視しなかったらしい。U機関に持ち込まれたそれらは、年月日もばらばらのまま、ほとんど無雑作に紙箱に突っ込まれた状態にあった。  フェルミが顔を覗かせたのを機に、二人は一時、休憩を取ることにした。 「ここ数日、ちょっと寂しかったよ。ダンもジョージ・アキラ・カトウも、スティーヴ・アートレーヤ・サンダースも、リチャード・ヒロユキ・アイダもいなかったから」  フェルミがぼやくと、うちわをばたばたさせるササキがすかさず突っ込んだ。 「ミィがおったじゃろ。あと、ニイガタ少尉も」 「あー、うん……」 「なんじゃ、その反応」  ササキが不満げに言うと、フェルミは正直に白状した。 「いや。ぼく、ケンゾウ・ニイガタはちょっと怖くて、気軽に話せないから」  フェルミは一度、ニイガタに盛大に雷を落とされた経験がある。その時の恐怖が、いまだに忘れられないらしい。日ごろ、ニイガタにちょくちょく怒られているカトウはフェルミの気持ちが分からないでもなかった。  フェルミは窓につるされた風鈴を見上げて、ため息をつく。 「ジョン・ヤコブソンも転属になっちゃったから。ダンたちがみんな出かけてる日は、マックス・カジロー・ササキくらいしか話し相手がいなかったんだ」 「そういえばヤコブソンのやつ、なんで急によそに行くことになったんじゃろか?」  ササキが浅黒い顔をかたむけ、不思議そうにつぶやく。カトウも同感だった。

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