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第9章⑮
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――約半月前。東京、調布飛行場。
金本と中山を前に座り込んだ黒木は、金本をにらむような視線を向けた。
「先ほどまで、千葉とこいつ とで話をした。貴様の飛燕の主翼に搭載されている十二.七ミリ機関銃二丁を、二〇ミリ機関砲に変えることにした」
「えっ……」
「マウザー砲(ドイツ製の二〇ミリ機関砲)が、たまたま二丁あまっている」
それは思いがけない話だった。
金本が操縦する飛燕一型乙は、機付の整備班長である中山がきめ細かい整備をしてくれていることもあって、運動性能は申し分がない。ただ武装に関してはいかせん、火力不足は否めなかった。とりわけ大型爆撃機のB29は、十二.七ミリ弾を何発かくらっても、容易には墜ちないと言われている。
だが二〇ミリ機関砲――ドイツ製のマウザー砲なら話は別だ。金本は南方にいた時に、複数の搭乗員からその威力のほどを聞いていた。たとえ大型爆撃機であっても、エンジンや主翼に当たれば、致命的なダメージとなりかねない。その威力は十二.七ミリ機関銃とは、けた違いだった。
とはいえ、二〇ミリ機関砲にも欠点はあった。
「…マウザー砲は十二.七ミリ機関銃に比べて、二十キロ近く重いはずです。使用される弾丸の重量も二倍以上ある」
ただでさえ飛燕の機体は重く、B29と同じ高高度まで上がるのは困難である。マウザー砲に兵装を変える利点より欠点の方が大きいように、金本には思えた。
だが、金本が気づくようなことだ。黒木だってとうに織り込みのはずだ。
思った通り、はなどり隊の隊長はすぐに言った。
「次にB29が来る時、貴様の率いる小隊の戦闘空域を八〇〇〇メートル以下に設定する」
黒木は手にした鉛筆で、地面に図を描いた。
「はなどり隊は三つの小隊から成っている。今、各小隊を率いているのは俺、貴様、それから今村だ」
工藤が特別攻撃隊に選ばれたため、彼の小隊は今、今村が代理として小隊長を務めていた。
「作戦はこうだ。B29を捕捉した後、各小隊が戦闘に入る空域を分ける。今村が率いる隊は九〇〇〇メートル、俺の隊は八〇〇〇メートルから九〇〇〇メートルの間、そして貴様の隊はその下だ。…B29が前回までのように高度一万メートルを飛んで来たら、これを戦闘機で迎え撃つのはまず無理だ。だが、いよいよ帝都を爆撃する目的で来るのなら、爆弾を攻撃目標に落とすために、わずかでも高度を下げてくる公算が高い。狙うなら、そこだ」
黒木の目が鋭く光る。
「すでに上から指示が出ている。B29を撃墜するためにあらゆる改修をしろ、とのことだ――つまり結果が出せるなら、どんな手を加えてもかまわないということだ」
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