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挿章 カナモト

 ーー彼の死から二年が経った。  心に負った傷をいやす最良の薬は歳月だと、誰かが言っていた。多くの場合、それは正しい。だが、なにごとにも例外はある。  時間が経っても俺は決して忘れられない。  彼の姿を、声を、触れた肌の感触を、手のぬくもりを。研ぎ澄まされた鋭い眼差しも、こちらを殺さんばかりの怒りに満ちた顔も、ほんの数えるばかりしか見せなかった柔らかい表情も――二度とその身体に触れられない、姿を見ることができないと思い知らされるたびに、喪失感が深まっていく。  そして彼の不在によって、空っぽになった胸の内側で、狂気がふくらんでいくのだ。  切っても切れない情愛で結ばれた者同士を、比翼の鳥と言う。  俺と彼は文字通り、天空で翼を並べて戦う間柄だった。共に過ごせた時間は長くなかった。そのわずかな時間が、俺たちの全てになってしまった。  本当なら、もっと多くのことを重ねていけたはずだったのだ。あの時に彼を奪われなければーー。  小脇順右。河内作治。もっとも罪の重い奴らはすでに片付けた。  だが罰せられるべきは、他にもいる。  彼も含め、多くの人間を無為に死なせながら、その責を負うこともなく生きながらえている連中が大勢、存在する。不当に生をむさぼっているそいつらに、誰かが死出の道を用意してやるべきだ。  誰もそれをせぬというのなら――俺がするまでだ。  屍は多ければ多いほどいい。やつらの死にざまが人の目を引けば引くほどいい。それだけ、彼へのはなむけになる。  彼がおとしめられ、ふみにじられ、忘れ去られていくのを、俺は認めない。今一度、よみがえらせて、長く語り継がれる存在へ変えるために、俺はなにもためらわない。  どんな困難も障害も、排除してみせる。  ……薄暗い堂内に、かすかに血の臭いが漂っている。  祭壇の壁の赤い文字を前に、俺は成功を祈って歌いあげた。 「この身が死んで、また死んで。  一百回死んで。  白骨が塵となった後、魂があるか無いか分からないが――」

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