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第12章⑦

 ガラガラヘビは牧師に感じた怪しさについて、プリズンを管理するアメリカ兵たちに言わなかった。告げ口するより黙っている方が、格段に面白い展開になりそうだからだ。彼女はうやうやしく口を閉ざし、何も知らないアメリカ兵が牧師を丁重に扱うさまを内心で笑っていた。 ーーもう一度、あのとの面会を希望して、さぐりを入れてみるのも悪くない。  そんなことを考えながら、ガラガラヘビは聖書を閉じた。まもなく昼食の時間だった。  本を棚に片付けていると、ちょうど独房の扉が外から二回、叩かれた。そのあとで、受取口から食事の載ったアルミのトレイが差し入れられた。 「お食事をありがとう。いただきます」  立ち去ろうとする兵士に向かって、ガラガラヘビは朗らかに礼を言った。  トレイを畳に置いて、彼女はいつものように食事にとりかかろうとする。  その時、小さな、しかし見過ごせない異変に気づいた。 「これは……」  味噌汁に入れられた白いキノコ。  見た瞬間は、半信半疑だった。だが、指でつまんでよくよく観察する内に、半分の疑いは晴れて確信に変わった。  ガラガラヘビは鋭い表情で立ち上がった。 「ちょっと! どういうつもりかしら?」  扉の向こうの兵士――今朝、巡回に来たのと同じ若者だ――に向かって、彼女は鉄格子越しに言った。声に込められた非難の色に、兵士が驚き戸惑う。  ガラガラヘビは困惑する相手の顔の表情に、最大限の注意を払いながら続けた。 「どういうつもりかと、聞いているの。あなた方がわたくしを厄介ばらいしたいのは重々、承知しています。けれども、せめて小銃かロープを使うべきではなくて? を、立派な殿方が取るべきではないわ」 「はあ…? 何を言っているんだ、お前」  ガラガラヘビはその反応に目を細めた。 ――この男、嘘はついていない。  ガラガラヘビか、あるいはダニエル・クリアウォーターに匹敵する演技巧者でもない限り、この驚きは心の底からのものだ。  ガラガラヘビは素早く思考をめぐらせる。即座に思いつく可能性は三つ。  その一。この青年が何も知らないだけで、やはりガラガラヘビを駆除する目的で、特別の食事が作られた。  その二。完全なる事故。問題のキノコが、間違って囚人用の食料の中に混じった。  その三、悪意のある事件。どこかの頭のイカれた人間が、故意にキノコを混入させた。  二か三の場合は悲惨だ。  この白いキノコの入った味噌汁が、他の囚人たちにも出されているなら急いで回収する必要がある。へたをすれば死者が出る。それもひとりではなく、複数。  ガラガラヘビは何も知らない青年に、冷ややかな口調で教えてやった。 「味噌汁の中に、毒キノコが入っている。早く、あなたの上官に伝えなさい。この白くて可愛らしいキノコを口にしようものならーーのたうちまわって死ぬってね」

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