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第13章⑯

 航空兵はまず何より、身体頑強でなければつとまらない。  黒木も、その例にもれない。それでも筋骨たくましい金本に比べれば、細身と言えた。普段、飛行服を着ているのと、よく他人を威嚇するような態度を取るので気づかれにくいが、実はなで肩だ。裸になって、金本もはじめてそのことに気づいた。  その黒木の身体を金本は抱いている。絶え間なく口づけを交わしながら、うなじから肩にかけて、さらに上腕や背中につらなる曲線を撫でる。整った顔と同じくらい、均整のとれた肉体だった。  二人とも、服は下着の(ふんどし)を含めてすべて脱いだ。黒木と直接、肌を触れ合わせることが、金本にはなんとも不思議な気分だった。黒木は前と同じように、金本の胸を撫でまわしにくる。胸の突起をつままれると、そのたびに静電気のような刹那の快感が走った。  黒木は片方の手で金本を愛撫しながら、もう一方の手で自分の後孔を指でほぐしていった。 そうやって自分の準備を終え、手を金本の腰へ下ろす。勃起したものが、さっきよりさらに怒張しているのを認めると、満足気に息を吐いた。  黒木は金本の身体にまたがり、上から顔をのぞきこんだ。 「緊張してるか」 「少し」 「男とするのは初めてか?」 「……ああ」  金本はためらいがちに答えた。嘘はついていないが、実は完全に正直でもない。  黒木は金本の態度が可笑しいらしい。笑って、「そう怖がるなよ」と言った。 「どうってことない。()れる方は、女とするのとそんなに変わらない。締めつけは、男の方がずっといいらしいけどな」 「………」  一瞬、金本が気まずそうに目をそらす。その反応を見た黒木は変に思ったが、すぐに隠し事のにおいを敏感にかぎつけた。 「おい。一応、聞いておくが、女としたことはあるよな…?」  返事がなかった。黒木は大きな目をしばたかせた。 「…ないんだな」 「悪かったな、なくて」  金本はいやいや白状した。 「怒るなよ。ただ、こっちもちょっと驚いたんだよ。こんな――」  黒木はなだめながら、ガチガチに硬くなった金本の性器を撫で上げる。 「立派なものを持っているのに、なんでまた? 外地だろうが、どこだろうが、相手に困ることはなかっただろう」 「…好きでもない相手とできるか! こんなこと…」 「……いや。たいていの奴は好きでもないやつとするんだけどな」  黒木は言っている途中で、ひどく艶っぽい笑みを浮かべた。 「やべえ。めちゃくちゃ、興奮してきた。筆おろしが好きな女がいるが、きっとこういう気分なんだろうな」 「ふで…なんだって?」  金本が知らない日本語だった。 「あとで意味、教えてやる。まあ、その前に――身体の方で味わわせてやる」  黒木はそう言って、金本の唇にむしゃぶりついた。  接吻は激しく、たちまち金本が抱いた気まずさも不機嫌も霧散する。黒木は枕元にあらかじめ、水でといて温めた片栗粉を用意しておいた。それを金本の怒張したものに塗りつけると、柔らかく開かれた自分の孔へ導いた。 「ああっ……」  入った瞬間、黒木ののどからうめき声が上がった。慎重に腰をおとしながら、ゆっくり肉棒を飲み込んでいく。顔にも言葉にも出さなかったが、実は入れるのがちょっと恐ろしい太さと大きさだ。加減をあやまれば、内側に傷をつけられそうだった。  浅く短い呼吸を黒木は繰り返す。金本の方を見る。目の前で起こっている行為が信じられないようだ。だが、恍惚とした表情からは、確かに快楽を得ていることが伝わる。  自分がこの男にとって初めての人間だ――そう思うと、愛しさがとまらなくなった。 「――俺以外とするな」  支配者の高圧的な懇願。あるいは従属者の必死の命令か。  黒木は両手で金本の頬をはさんだ。 「お前は俺だけ知っていればいい。俺だけが、お前の唯一の男だ」 「…ああ。当然だ」  金本は答える。 「お前だけだ、栄也」  金本は腕を伸ばして黒木の腰をつかむ。その力強さに黒木はさからわなかった。一気に根元まで沈んだ刹那、黒木は目をつむった。待ち望んだ瞬間を、永久に心に刻んでおきたかった。

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