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第13章㉔
高島は今回の一件を通じて、熊谷飛行学校の校長をつとめていた頃をなつかしく思い出した。だが追憶は、同時に容赦のない現実をつきつける。
教え子である学生たちの過半が、すでに鬼籍に入ってしまった。いずれも、高島の半分にも満たない年だった。そして今、生き残っている者たちが今世に永久の別れを告げる日も、そう遠いものとは思えなかった。
高島は河内に向かって言った。
「…河内大佐。貴官は調布の戦隊長に、金本勇曹長を特攻に選出せんとする理由について、こう言ったそうだな――金本は大逆人の弟でありながら、おめおめと生き恥をさらしてきた。今こそ、国のために死ぬべきである。大罪を背負った弟が、自らの死と引き換えに汚名をそそぐ。最高の美談ではないか、と……実はな。私はこれとよく似た理屈を、以前ある男の口から聞いたことがあった」
河内は口を閉ざしたままだ。高島は目を細めて言った。
「七年前、当時、航空本部長だった東條英機だよ。金光洙の弟であり、飛行学校の学生だった金本勇を、東條は技量未熟のまま前線に送り、早晩に戦死させる腹づもりだった。もっとも、実際にはあの男の思い描いた通りにはならず、金本は今も生きているがね。私は金本に対する非情な処遇は、東條自身が考えついたとばかり思っていた…しかし、どうやら違ったようだ」
「……」
「貴官だったんだな。東條に近しい立場にあって、金本を亡き者にすべく献策を行ったのは。そして今再び、金本勇を特別攻撃隊に入れて殺そうとしている。さらに、一度は特攻に出ながら生還した黒木栄也大尉も」
河内の顔は今や青ざめていた。
「なぜだ?」
高島は問いただす。
「小脇順右少佐が黒木大尉に私怨を抱く理由は、まだ理解できる。しかし金本に対する貴官の執拗とも言える敵意は、どうにも理解できないーー彼が、大逆事件を起こした金光洙の弟だからか? それとも、そもそも朝鮮人に対して含むところがあるのか? あるいは私が知らぬだけで、金本個人に恨みがあるのか? …いったい、その殺意の源はなんだ?」
追及を受ける河内は、ようやく口を開く。しかし、つむがれた言葉はただ、
「…閣下のご想像されている動機で、ほぼ間違いありません」だけだった。
高島は不満だった。だがこれ以上、問い詰めてもむだだと見て取り、矛先をおさめた。
「――航空機による特別攻撃は、今後も続けざるを得ないだろう」
そう言った時、高島の顔はこれ以上なく苦いものだった。
会議の場で黒木は通常攻撃によるB29の撃墜数が、特攻によるものより多いと言った。
だが、それはあくまで報告された撃墜・撃破の数がすべて正しいという前提に基づけばの話だ。実際のところ、それらの半数以上、ひどい場合、十のうち七、八までが誤認であると高島は考えている。報告された「撃墜」の数に比べて、地上で確認されたB29の残骸があまりに少ないことから、それは明らかだった。
しかし、この事実が広く知れ渡ることはあるまい。
帝国陸海軍の航空部隊が、B29の来襲においてほとんどものの役に立たないことを、大本営が認めるはずがなかった。
黒木が言うように、戦闘機による通常攻撃でのB29撃墜は確かに不可能ではないだろう。だが、それができるのは高い技量と豊富な経験を有したごく一握りの者に限られている。
それこそ、黒木栄也や金本勇のような――陸海軍合わせても、そのような職人技を持つ搭乗員はもう何人も残っていない。
とてもではないが、質量ともに桁違いのアメリカの航空戦力に、太刀打ちできるものではなかった。
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