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第18章③

 東京から来たというその二人の占領軍人と対面し、韓廷鐘(ハンチョンチョン)は思った。  これはまた、ずいぶんと好対照な二人組だ、と。  片方は背が高く、立派な体つきをした、朱色の髪と緑色の瞳を持つ白人だ。  もう一人はアメリカの軍服を着ているものの、その点を除くと日本人と変わらない外見をしている。アメリカで生まれた日系二世というやつだろう。韓と比べても、背丈は低く、体つきも貧弱だ。韓が日本人に抱く偏見かもしれないが、どことなく陰気そうな男である。  大阪市内東部の朝鮮人集住地区。大通りに面し、最近、開店したばかりの食堂の二階の六畳間に、韓は息子の文葵(ムンキュ)と一緒に、来訪者たちと向かい合っていた。この街で朝鮮人を相手に朝鮮服を売る韓は、英語はおろか、日本語もあまり得意ではない。全く話せないというわけではないが、朝鮮語で話して息子に訳してもらった方が、ずっと正確に伝わる。  文葵が話す日本語を、くだんの日系二世――確か、カトウ軍曹と紹介された――が訳して、朱色の髪の持ち主、クリアウォーター少佐に伝える。そうやって、一同はコミュニケーションを取っていた。 「――あなたはこの場所に住んで、ずいぶん長いんですか?」  その問いに、韓はうなずく。 「この辺りの人間の中では、古株と呼べるでしょう。済州島(チェジュド)と大阪の間に連絡船が走るようになる前に、渡ってきましたから。かれこれ、三十年近く前のことです…」  答えながら、韓は暑さを和らげるために開けられた窓へ目をやった。通りの反対側に面していて、平家と二階建ての長屋がひしめき合い、その合間に電柱と工場の煙突が不揃いに生えている。  大阪市は、先の大戦末期に何度も米軍の空襲を受けた。とりわけ、市の中心と港湾地区の被害は甚大で、一部の街区を除いて焼け野原と化した。  韓たちの住むこの街にも、戦火は容赦なく迫った。しかし、船場や他の街のように全てが灰塵と化すことはなく、少なからぬ木造家屋が奇跡的に焼失を免れて、しぶとく生き残り、以前の姿を保っていた。  決して美しい街ではない。どこを見渡しても雑然としていて、ゴムやらキムチやら、色んなものが混じり合って、形容し難い匂いが常に通りに満ちている。  しかし、葦の原っぱが広がり、人もまばらだった頃にこの地に来た韓は、時と共に同胞たちが増え、活気だけは失われることのなかったこの街を愛していた。  もっとも、他人の目にどう映るかはまた別の問題である。  住民の大半が朝鮮人というこの街に、日本人は用がない限り、進んで近づきはしない。好奇心旺盛な占領軍の将兵であっても、こんなところまで足を伸ばす人間は稀だ。  目の前に座る二人の男が、何を好き好んで、こんな場所までやって来たのか――いや、東京で起こった事件が関係していることは、すでに韓も耳にしている。しかし、聞きたいことがあれば、先にそうしたように、自分たちの仕事場に召喚すれば、事足りただろう…。  そう思っていると、朱髪の少佐が、鷹揚に微笑んだ。 「急な訪問だったのに、応じていただき感謝します」  韓は虚を突かれた。日本人の警官の口から、そんな台詞が出たことはついぞない。  と同時に、その礼儀正しさに好感を持った。  警戒心や猜疑心が薄れ、自然と前に尋問を受けた時よりも、韓は多くのことを話す気になった。

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