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第19章④
グラハムは熱を帯びた口ぶりで、一気に内心を吐露した。
「この前、素晴らしい逃げっぷりを見せたパイロットといい、あの『月と花』のパイロットといい、日本軍には、まだすぐれた搭乗員が残っている。彼らと戦えることが、私は楽しくて仕方がないんだ。ウィンズロウ大尉。君は戦争に嫌気がさしていて、早く終わることを願っている。私もつい何ヶ月か前に、従兄弟を失って、悲しんだ。日本軍のパイロットの戦い方を聞き取り始めたのも、アメリカの同胞たちが死ぬ事態を、少しでも減らしたいと思ったからだ。…だけどね。私の中に確実にいる、もう一人の私は、まだ戦争が終わってほしくないと思っている。もっと多くの優れたパイロットたちと、しのぎを削って戦いたいと願っている。私という人間の本性はねーー命をかけた戦いに、どうにも興奮してしまう戦闘狂なんだ」
言い終えて口を閉ざすグラハムに、ウィンズロウはなんとも言いがたい表情を浮かべる。
ややあって、麦わら色の髪の大尉はため息をついた。
「――…なによ。大した変態じゃない、あなた」
「そうだな。それで、私の決闘の申し出に対する、君の返答は?」
「ノーに決まってるでしょ」
ウィンズロウは呆れた口調で言った。
「味方同士で、勝手に戦闘機を使って戦う方が、男同士でこっそり寝るよりよっぽど重罪よ」
「その通りだな」
「いくらなんでも、そんな悪いこと、するわけないでしょう」
「本当に?」
「ええ」
「……」
「……」
アメリカ陸軍内でも屈指の実力を持つ二人のパイロットは、互いに視線を見交わす。
そして、この時だけは言葉を交わすことなく、双方が相手の心中を理解した。
「プッ…クククク」ウィンズロウが笑うと、
「ハハハ」とグラハムも声を上げて笑った。
「ああ、ダメね。降参」
ウィンズロウは両手を上げた。
「二人だけの悪い秘密なんて、最高に魅力的じゃない。断れないわ」
「勝負、受けてくれるね」
「ワタシは、勝ちを譲る気はさらさらないわよ」
ウィンズロウは自信たっぷりに言い切った。
「相手が世界一の性能の戦闘機で、乗っているのがアメリカで最高のパイロットだとしても――全身全霊かけて、相手してあげる」
「それこそ、私の望むところだ」
「賞品は、あなたってことでいいわね? ワタシが勝ったら、ベッドで一晩過ごす」
「いいだろう。君が負けても、キスくらいはするよ」
「わぉ。やる気出るわ。で、いつやるの?」
「機会が巡ってきたら、すぐにでも」
「約束よ」
「ああ、約束だ」
…空に星が瞬いている。
自分の宿舎 へ戻るグラハムを、ウィンズロウは見送った。その十五分後に、彼自身も身支度を整えて、外へ出た。仕事の時間だ。
夜の帷よりもなお黒い「首無し花嫁 」号の元へたどり着くまで、ウィンズロウは上機嫌で口笛を奏でていた。
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