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第19章⑱

 伸びはじめた朝顔の蔓のように、白い両腕が金本に絡みついてくる。金本も腕を伸ばし、恋人の背中を愛おしそうに撫でた。時間をかけて愛撫された黒木は、恍惚とした瞳で金本を見上げた。  金本に何度も吸われた唇が、紅をさしたように赤みを帯びている。そこからチラチラとのぞく舌は、いっそう淫らに見る者を誘う。何のためらいもなく、金本は唇を重ねた。己の舌で相手の口中を犯すと、黒木は達した時のような悦楽の声を上げた。 「あっ……うぅ……そろそろ挿れて…」  懇願する黒木の両足をつかみ、金本は開かせる。そのまま進むと、慎重に慣らされた後孔は、金本のものをすんなりと受け入れた。 「ひっ…あー、あっっ…!」  快感の波に、黒木はとらわれたようだ。金本が動くたびに、か細い悲鳴のような嬌声を上げる。声が外に漏れやしないかと、金本は少し心配になった。  割り当てられた兵舎の中で、二人は交わっていた。  「はなどり隊」と「らいちょう隊」、「べにひわ隊」の搭乗員たちは、外出許可を得て、外の旅館で久しぶりに宴会を開いていた。最初、黒木と金本も参加していたのだが、口実を設けて早々に飛行場へ戻ってきた。  兵舎の布団に転がってすぐに、黒木は乱れた。そして金本も。調布を出て以来、初めて身体を重ねたからというのもあるが、それだけが理由ではなかった。  死が、今まで以上に身近に迫っているのを感じた。  沖縄の陥落は、もはや避け難い。そんな噂があちこちで聞かれている。  沖縄が米軍の手に落ちれば、いよいよアメリカ兵たちの本土上陸が現実のものになってくる……。  その時に真っ先に矢面に立つのは、金本や黒木のような戦闘機乗りだ。  終わりがーー日本という国と自分たちの命の終わりがーー近づいていることを、金本は感じ取っていた。 ーーひょっとしたら。この交わりが、最後になるかもしれない。    黒木の肌を撫で、その身体をむさぼっている間にも、金本はふとした瞬間に、そんなことを考えてしまう。ざわつく心は、欲情を余計にかき立てた。  時間が欲しいーー知覧に来て以来、金本は切実に思うようになった。  黒木と情を交わす時間が、彼をいたわる時間が、笑い合ってとりとめのない言葉を交わす時間が、もっと欲しいと思った。  …黒木が金本の胴に、四肢を絡めてくる。まるで助けを求めるように、啜り泣くような声で何度も「蘭洙」と金本の名を呼ぶ。  欲情にかられるまま、金本は黒木の頭を乱暴につかみ、熱のこもった接吻を交わす。  その直後、痙攣し、弓なりになる黒木の身体の中に、金本はしたたかに精を放った。

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